「バラの花はいいとして、レストランで、しかもプロポーズでぎょうざって、めずらしいわね」
「無理……ですか?」

 恩田さんの言葉に、大地君が不安そうな表情を浮かべた。 

 たしかにデートでは、ステーキやハンバーグ、パスタなんかのメインディッシュを注文するお客さんが多い。けれど、そこはファミリーレストラン《りんごの木》。食材さえあれば、メニューに載っていなくても、お客さんの希望を叶えるのが白雪りんご流だ。

「作れますよ、ぎょうざ。任せてください!」

 ほら。やっぱり!

「さすが、りんごおじさんだね!」
「プロポーズが成功するように、僕たちもがんばらないといけませんからね。ちなみに、ぎょうざに深い思い入れでもあるんですか?」

 再び、大地君にみんなの視線が集まった。

「彼女──、鐘山愛華さんとは、おとぎ商店街の『ギョウザ大食い大会』で出会ったんです」
「あったわねぇ、それ。五、六年前じゃない? たしか、商店街の八百屋さんとお肉屋さんがタッグを組んで開催したイベント」
「オレ、覚えてます。《かがみ屋》の宴会場が会場でしたよ」

 恩田さんとアリス君は懐かしそうだが、二年前に来たりんごおじさんと、来て間もないましろには分からない。
 けれど、とにかく大地君と愛華さんは、その「ギョウザ大食い大会」で出会い、仲良くなったらしい。

「すごいね。愛華さん、大食いなんだ」

 大地君は、見た目通りよく食べる。ましろは何度かランチを食べに来た大地君を見ていたので、それは知っていた。

「いや。愛華さんはむしろ小食なんだ。でも、大好物のぎょうざがタダで食べれると聞いて、隣り町から大会に参加しに来たんだよ!」
「わっ! ぎょうざが大好きなんだね!」
「ニンニクたっぷりのぎょうざをパクつく女子、いいじゃない」

 ましろと恩田さんは、大会の様子を想像して笑い合った。

 なんだか、面白い出会いだなぁ。

「俺もそう思って、思い切って彼女にアプローチしたんです。それからの付き合いです」
「おとぎ商店街のイベントでカップルが誕生していたなんて、うれしいですね。これは、ますますおいしいぎょうざを作らないと。そうだ。アリス君、新作のデザートを考えてもらえますか?」
「了解っす」

 アリス君はりんごおじさんに頼まれて、張り切った返事をした。