おとぎ町に来てから、あっという間に三ヶ月が過ぎた。最近ではどんどん暑い日が増えてきて、季節が夏へと向かっていることを、ましろはまぶしい日差しで感じていた。
 そんなある日、ましろはクラスの女の子たちの恋バナを「ふむふむ」と聞いてた。

「となりのクラスの佐原君と結衣ちゃん、付き合ってるんだって~!」
「えぇっ! ウソ、いつの間に?」
「月曜日の放課後に、佐原君が告白したんだってさ!」

 ましろは、よく知ってるなぁと感心しながらうなずいていた。

「付き合うって、どういうことするの?」

 ましろがほんのちょっとの興味でたずねると、女の子たちは「ましろちゃんってば!」と顔を赤らめた。

「そりゃあ、二人で学校から帰ったり、お出かけしたり……」
「ご飯とかお菓子を作ってあげたり~」
「手をつないだり……、ほら、キスとか」

 キス!

 女の子たちの「キャ~!」という悲鳴の真ん中で、ましろも想像してドキドキしてしまった。

「ましろちゃん、私の『恋らびゅ』貸してあげるから、それで勉強しなよ!」

 友達が言ったそれは、ましろもタイトルだけは知っていた大人気少女マンガ。『恋してらびゅーん!』だ。

「わっ、わたしにはまだ早いかな……」
「そんなことないっ! よーんーでっ!」

 そして戸惑うましろはグイグイせまられ、ついに『恋らびゅ』を貸してもらう約束をしたのだった。


 でも、ちょっと苦手なんだよなぁ……。

 ましろは以前、桃奈から「おじさんには彼女はいないのか」という話をされた時もそうだったのだが、実は恋愛の話が苦手だった。理由は、よく分からないからだ。好きな人がたくさんいる友達もいるけれど、ましろは、まだ初恋だってしたことがない。

「恋か~」

 口に出したからといって、すぐに恋が降ってくるわけがない。

 とりあえず、『恋らびゅ』を読んでみよう。でも、恥ずかしいから、りんごおじさんにはナイショにしよ。

 ましろは小学校の帰り道、おとぎ商店街の中をぶらぶらと歩きながら、《りんごの木》を目指して歩いていた。

 今日は、アリス君の新作スイーツを試食させてもらうのだ。「すっげぇうまいから楽しみにしとけ!」と、目付きの悪い目を細くして笑っていたアリス君への期待は、学校にいる間もどんどんふくらんでいた。

 どんなスイーツなのかな~? わくわくする!

「よっ! おつかれ!」

 ましろが上機嫌でスキップをしていると、背中側からウワサのアリス君の声がした。そして、スーッと自転車で隣に並んで来る。

「アリス君! 商店街は、自転車に乗っちゃダメなんだよ!」
「へいへい」