ふと、乙葉さんが店内を見渡して言った。それは二ヶ月前の《りんごの木》との違いで、乙葉さんの出産をきっかけに起こった改革だった。

「それね、みんなで一生懸命考えたんだよ!」

 ましろは、待ってましたと言わんばかりに胸を張った。

「ベビーカーが入りやすいように、通路を広げて、トイレもリフォームして、おむつ交換台が付いたんだよ! それに二階のお部屋もキレイにして、授乳室にしたんだ!」
「離乳食の持ちこみもオッケーですし、食器も貸し出しますよ」
「絵本も置くようにしたのよね」

 ましろはりんごおじさんと恩田さんの説明も加えて、《りんごの木》の変化を発表した。
 しばらくお店を休みして準備をしたかいもあって、《りんごの木》の客層は、赤ちゃん連れのお母さんたちにまで広がったのだ。

「うれしい……! ましろちゃん、ほんとに考えてくれたんだ」

 乙葉さんは二ヶ月前のことを覚えていてくれたようで、目をうるうるさせていた。そして、「ありがとう」と満面の笑みを見せてくれた。

「ねぇ、乙葉さん! 赤ちゃんの名前はなぁに?」

 ましろは、赤ちゃんを抱っこさせてもらいながらたずねた。

 赤ちゃんは力を入れたら壊れてしまいそうなくらい小さくて、やわらかい。そして、なんだかいい匂いがした。

「この子は、まゆりっていうの。百合の花みたいに純真な子になってほしい──。でも、ひらがなにしたのは、ましろちゃんの真似っこ。ましろちゃんに負けないくらい、優しくてまっすぐに育ってほしいから」

 まゆりちゃん。

 ましろは、心の中で何度も繰り返した。

 うれしくて、照れくさくてたまらない。

「さて! 店長さん、【浦島太郎の漁師飯】、よろしくお願いしますね!」

 席に着く乙葉さんの横で、ましろはそぅっと、まゆりちゃんに頬ずりをした。


 幸せいっぱいに育ってね。まゆりちゃん。