「乙葉さんの赤ちゃんだよね……! 産まれたんだよね……?」
「そうよ! 産まれたのよ!」

 ましろと恩田さんは、二人で手を取り合って喜んだ。
 きっと分娩室の中では、乙葉さんと乙葉さんの旦那さんもとても喜んでいるに違いない。その姿を想像すると、いっそう嬉しくなる。

「ましろちゃん、覚えておいて。お母さんって生き物は、赤ちゃんのためなら何だってできるの。それこそ、出産は命がけ。だから赤ちゃんが産まれるってことは、それだけでとてもとても尊いの」

 恩田さんは、ましろの肩を抱きしめながら言った。

 トウトイ。この気持ちが、そうなの?

「すごいね。お母さんって、すごいね」

 わたしのお母さんも、そうだったのかな。
 
 もう、お母さんに聞くことはできないけれど、きっとお母さんもましろを命がけで産んでくれた。ましろに会うために、痛くても、苦しくても、最後まで戦ってくれた──。

 そうだよね、お母さん。

 あたたかい感情が、ましろの心に広がっていた。

「この瞬間の感動を思い出して、痛みは忘れちゃうのよ。だから私は、五人産んだわ」

 恩田さんは、懐かしそうに笑っていた。

 さすが恩田プロだ。




 ***
 それから二ヶ月後──。
 乙葉さんは、《りんごの木》にやって来た。

「こんにちはー! お久しぶりです!」

 スッキリとスリムになった乙葉さんは、軽やかな足取りでベビーカーを押していた。そして、ベビーカーの中には小さな赤ちゃんがいた。

「乙葉さーーーんっ! 赤ちゃんと来てくれたんだね! 待ってたよーーーっ!」

 ましろはいらっしゃいませを言うのも忘れて、乙葉さんに抱きついた。

「乙葉さん、くびれてる!」
「そりゃあね! これが真の姿よ」

 乙葉さんはクスクスと可笑しそうに笑うと、お店の奥にいたりんごおじさんと恩田さんにも笑顔を向けた。

 なんて晴々とした笑顔だろう。

「みなさんのおかげで、無事にママになれました! 娘も元気です!」
「よかったです。安心しました」
「すっかり母親の顔じゃないの」

 りんごおじさんと恩田さんも、すぐに乙葉さんのところに駆けつけて来た。もちろん、赤ちゃんにもメロメロで「抱っこさせて」と、取り合う勢いだ。

「そういえば、なんだか子連れのお客さんが多いですね」