「しっかり焼いてるから安心してくださいって、店長が言ってたわよ」

 恩田さんは、いつの間にかご飯とおみそ汁をテーブルに並べ終えていた。さすがベテランのパートさん。手際が良い。 

 見習わなくちゃいけないなぁ。

「ふふふ。あんまりじぃーっと見られると、恥ずかしいわよ」
「あっ! ごめんなさい!」

 つい恩田さんの動きに見入ってしまい、笑われたことが恥ずかしくなったましろはそそくさとお店の奥に引っこんだ。
 すると、そのタイミングでりんごおじさんに手招きされた。

「ましろさん。さっき、乙葉さんが赤ちゃんとお店に来やすくなる方法を考える、と話していましたね?」
「うん! そうそう! でも、なかなか思いつかなくて」

 りんごおじさんはに何かいい案があるのかなと、ましろは前のめりになった。
 ところが、りんごおじさんは「僕もなんです」と、首をひねっていた。ましろは思わず拍子抜けだ。

「ファミリーレストランを名乗っているからには、赤ちゃんとお母さんにも楽しんでもらえるお店にしたい……。前から、そう考えてはいたんですけど」

 赤ちゃんと接する機会が少ないと、なかなかピンとくるアイディアが出て来ないのはましろと同じらしい。

「りんごおじさんがそのつもりなら、本気でやってみようよ! いっしょに勉強して、たくさんのお母さんたちから、話を聞いてみようよ!」
「そうですね。やってみましょう!」

 今回ばかりは頼りになるかは分からないけれど、りんごおじさんがいっしょに考えてくれるのは、とてもうれしかった。ましろは、なんだか使命を帯びたようで、気合いが入る。

「じゃあ、まずは恩田プロとアリス君にも聞いてみないとね!」
「案外、アリス君からいい意見が出るかもしれませんよ。旅館でも、色々な工夫をしているでしょうから」
「お客さんにアンケートを取ってみるのは?」
「いいですね!」

 りんごおじさんと話していると、時々まるで友達といるような気分になる。父親ではないからかもしれないけれど、こういうのは嫌いじゃない。りんごおじさんは、いつだってましろと同じ目線で真剣に話してくれるのだ。



 その時だった。

「ひゃっ!」

 お店のトイレから、乙葉さんの短い悲鳴が聞こえたのだ。

「どうしたのっ?」