ましろは、ちゃんとした食事をとる気になれず、ずっとお菓子を食べていたのだ。

「お茶だけもらおう」

 ましろはキッチンの食器棚からコップを借りると、冷蔵庫からお茶のボトルを取り出す。そして自分の荷物の中にあったクッキーの箱を持ってくると、ビリビリと破いて中身を出した。

 サクッ
 いい音がする。
 サクサクッ
 クッキーがおなかに入っていく。
 サクサクサクッ
 でも、味が分からない。食べてる感じがするだけ。

 チョコレートも、おせんべいも、プリンも、みんないっしょだった。

 でも、食べないと死んじゃうから。
 あれ、だけど、死んだらお母さんに会えるんじゃない?

 ふと、そんな考えがましろの頭に浮かび、クッキーをつかむ手が止まってしまった。

「お母さん……。なんでわたしを置いていっちゃったの……?」


 その時、玄関のドアがガチャリと開き、「休憩時間なので帰ってきましたよ~」と、のんびりした声が響いた。りんごおじさんが帰って来たのだ。

 ましろは慌ててクッキーを隠そうとしたが、間に合わなかった。
 りんごおじさんは、サンドイッチを食べずにクッキーを手に持っているましろを見て、「ましろさん……!」とハッ驚いた顔をした。

「りんごおじさん、ごめんなさい! わたし、サンドイッチ食べてなくて……」

 ましろは用意してもらったものを食べなかったことを怒られると思い、今更クッキーを背中に隠したが遅かった。

 りんごおじさんは、ずいずいと近づいて来て──。


「つらかったですね、ましろさん。我慢していたんですね……」

 りんごおじさんは、怒っていなかった。

 ましろの頭を自分の胸に優しく引き寄せて、ギュっと抱きしめていた。

「おじさん? 大丈夫だよ。わたし、平気だよ?」
「平気だったら、どうして泣いているんですか?」

 りんごおじさんに言われて、ましろは初めて自分の目から涙が零れていることに気がついた。

「えっ! わたし、なんで……」

 驚いて目をこすったが、ぽろぽろと出て来る涙は止まる様子がない。

「うっ。うぅっ……。ご、めんなさい。こんな子、嫌ですよね。でもわたし、ひとりだとダメで……。おじさん、わたし……」

 ひとりにしないで。
 嫌いにならないで。
 置いていかないで。