「予定日は二週間後だけど、臨月だからねぇ。いつ赤ちゃんが生まれてもいいように、あたしは今しかできないことをしてるんだ」
「そうよ~。マタニティライフを楽しんでおかないと、後悔するんだから」

 乙葉さんとおしゃべりしていたましろの代わりに、恩田さんがお水とお手拭きを持って来てくれた。

 今日は日曜日だけれど、アリス君が「どうしても食べに行きたい限定パフェがあるんです!」と、恩田さんに頼んでアルバイトを代わってもらったらしい。

 そんなにどうしても食べたくなるパフェなら、ましろだって食べてみたい。けれど、「ましろちゃんと同じシフトって、なかなかないから嬉しいわ」なんて恩田さんに言われたら、やる気が出てしまうではないか。

「マタニティライフって、何?」

 ましろは恩田さんに尋ねた。

「妊婦生活ね。妊婦さんは体を大切にしながら、おなかの赤ちゃんを育てていくの。どんどんおなかが大きくなって大変だけど、赤ちゃんグッズをそろえたり、名前を考えたり、楽しいことがたくさんあるわ」
「おいしいランチを食べに来ることもね」

 恩田さんの説明に、乙葉さんが付け加えた。恩田さんも「そうそう」と、力強くうなずいている。

「赤ちゃんが産まれるのは楽しみだけど、しばらくは、ひとりでぶらっとランチなんて無理ですよね?」
「誰かに協力してもらえば、できないこともないけど。授乳時間に縛られるから、のびのびはしづらいわね。赤ちゃんとは一心同体と思っておいた方がいいわ」
「恩田さんが言うと、説得力がありますねぇ」

 ましろには弟も妹もいないので、二人の会話を聞きながら赤ちゃんがいる生活を想像することしかできない。多分、ベビーカーでお店に入りにくいとか、赤ちゃんが泣いたら周りに迷惑がかかるとか、色々ネックになることも多いのかもしれない。

「でも、そういうのって、お店の人が協力したら、何とかならないのかなぁ」
「ましろちゃん、何かいい案を考えてくれるの? 嬉しいなぁ」

 乙葉さんはにこにこ笑いながら、ましろの頭を撫でてくれた。けれど、子ども扱いされている感じがして少しムッとしてしまう。

「乙葉さんが、気軽に赤ちゃんと来れるようにするから! 絶対!」
「うんうん、ありがとう。楽しみにしてる」


 そして、乙葉さんはメニューをパラパラとめくる。