ましろは、りんごおじさんに抱きついたまましゃべった。こうしていると、心が落ち着いて気持ちをひとつずつ整理できた。そして、どうして自分があんなに怒っていたのかがようやく分かったのだ。

「わたしは、りんごおじさんとあじさいモンブランを食べるのを楽しみにしてたんだ。だからあの時りんごおじさんが、あっさりパン屋さんに切り替えたのが許せなくて……。わたししか楽しみにしてなかったのかな、って」
「そうだったんですね……。もちろん、僕もとても食べたかったです。でもあの時は、それ以上に早くましろさんに笑ってほしくて、慌てて代案を出したんです」

 それが、パン屋さんだった。

「ましろさん、カレーパンが好きだったなと思って。火に油を注いでしまう結果でしたが……」
「わたしがカレーパンが好きって、知ってたの?」

 ましろが顔を上げると、りんごおじさんの優しい瞳と目が合った。にっこりと笑っている。

「パン屋さんに行ったら、いつも嬉しそうに選んでいるでしょう? 見ていたら分かります」
「ええっ! うそ!」

 ましろは自分はそんなに分かりやすいのかと思うと、急に恥ずかしくなってしまった。今まで、どんな顔でパン屋さんにいたのだろう。

 そして、もうひとつハッとした。

「もっ、もしかして、今日の料理教室がカレーパンだったのって、わたしのため……?」
「……そこがまた、僕が先生失格な理由なんです」

 りんごおじさんはいたずらっぽく笑うと、「でも、カレーパンは美味しいですから」とダイニングテーブルを指差した。そこには、ましろの作ったカレーパンだけでなく、りんごおじさんが作ったものも置かれていた。

「交換して食べませんか? ましろさんの好きな、大きなじゃがいもにチーズを合わせてみたんです」
「ふふふ。いっしょだ! わたしは、りんごおじさんの好きなチーズにじゃがいもを合わせたから!」

 お互い同じことを考えていたと思うと、つい、可笑しくなって笑ってしまった。昼間のイライラがウソのようだ。



 そして、トースターで温め直したカレーパンは、ましろとりんごおじさんのおやつになった。