桃奈は「ほら、もう少しだから」と、ましろにパン生地をちぎって渡すと、自分は手際よくそれを延ばしてカレーをせっせと包んでいく。

「食べてほしい人のことを思い浮かべて、カレーを包みましょうね。チーズやゆで卵、大きめにカットした野菜を、お好みで入れてみてください」

 りんごおじさんの説明だ。そして、「茉莉花、迷っちゃう。せんせい、どれがいいと思います~?」という、茉莉花の声が遅れて聞こえてくる。

 なんで、りんごおじさんに聞くの。

 まさか、茉莉花はりんごおじさんにカレーパンをプレゼントする気なのだろうか?

 ましろはつい、茉莉花が「好きです。カレーパンもらってください。せんせえ」と言っている姿を想像してしまった。

 やだやだ。なんかヤダ!

 こうなったら、めちゃくちゃおいしいカレーパンにしてやらないと気がすまないと、ましろは張り切ってカレーを包むことにした。

「チーズと、でっかいじゃがいもをごろごろ入れるよ! おなかいっぱいになるやつ」
「ちょっと入れ過ぎじゃない?」
「大丈夫だよ! 生地をちょっと伸ばしたら、いけるよ!」

 ましろは桃奈に心配されながらも、みょんっと生地を引っ張って具を無理矢理に押し込む。そして追加でトマトチーズを包んで、合計二個のカレーパンを完成させた。あとは、オーブンで焼きあがるのを待つばかり。その間は、洗い物や片付けをする時間だ。

 すると、隣の洗い場で茉莉花と茉莉花の友達が、りんごおじさんのことを話していた。ましろは思わず、ハッとそちらを見てしまう。

「ねぇ。白雪せんせえって、大人の魅力がステキじゃない?」
「えぇ~? どんなぁ?」
「全部受け止めてくれる包容力っていうか~。家庭的なところとか~」
「茉莉花ちゃん、前は仕事がバリバリできる男の人がいいって言ってたじゃん」
「今日の気分は違うの! キャリアウーマンになった茉莉花を専業主婦のせんせえがお家で待っててくれる、みたいなのが理想なの!」

 りんごおじさんのこと、何も知らないくせに。勝手なこと言って。

 ましろはムッとしながら、わしゃわしゃと調理器具を洗い続けた。よく分からないけれど、胸がムカムカイライラざわざわして気持ちが悪い。泡みたいに流してしまいたい。 

「わたしのおじさんなのに……」