***
 その週の木曜日。あいにくの雨だが、小学校の創立記念日と《りんごの木》の定休日が重なってくれたおかげで、ましろはりんごおじさんと電車で隣の隣町にある公園に来ていた。

 そこは、あじさい公園と呼ばれる、その名の通りたくさんの紫陽花が咲き誇る公園で、地元の人や観光客に人気なスポットだった。紫やピンク、赤や白など、色とりどりの紫陽花を見ることはもちろんだが、ましろのお目当ては別にあった。

「あじさいモンブラン……。あじさいモンブランは?」

 有名な老舗和菓子屋さんが梅雨時期限定で販売するあじさいモンブランこそ、ましろの旅の目的だった。
 美しい紫陽花色のクリームを花弁のようにデコレーション、サクサクのメレンゲの土台に乗った、バターたっぷりのスポンジケーキ……。それはテレビで見て以来、ましろの心をがっつりと鷲掴みにしていて離さなかったのだ。

 そして、それを見たりんごおじさんが「では食べに行きましょうか」と、ましろをここまで連れて来てくれた――けれど、なんと不運なことか。

 和菓子屋さんは定休日だったのだ!

「お休み……。あじさいモンブラン、ない……」

 お店の入り口にある定休日の張り紙を見て、ましろは立ち尽くしていた。あまりのショックで、言葉がスムーズに出て来ない。

「ましろさん、すみませんでした……」
「モンブラン…………」
「せっかく足を伸ばしましたし、あじさい公園を散策してから他のお店に入りますか? 駅にカレーパンのおいしいパン屋さんがあるみたいですよ」
「モンブラン…………!」

 始めは謝っていたけれど、すぐに観光雑誌をめくって代わりの案を出して来たりんごおじさんにましろは声を荒げた。ましろは、とても怒っていた。

「わたしの口は、モンブランなの! モンブラン以外食べたくないよ!」

 むかむかと怒ったのは久しぶりで、もう、ましろは止まらない。

「桃奈ちゃんに、あじさい金平糖をお土産にするねって言っちゃったじゃん! アリス君にも写真送るねって約束したのに! なんでちゃんと調べてくれなかったの? こんな嵐みたいな大雨で、あじさい見たって楽しくないよ!」

 恐ろしいくらい激しい横殴りの雨にかき消されないように、ましろは大声で叫んだ。もはや嵐だ。