「『子ども料理教室』ですか。僕なんかでよければ、ぜひ」
「本当ですか。 いやぁ、ありがとうございます」


 とある日曜日、《りんごの木》の営業時間の少し前に、アリスパパはやって来た。
 なんでも、次の日曜日に《かがみ屋》で「子ども料理教室」という地域のイベントを行うそうで、りんごおじさんにその料理教室の先生をしてほしい、というお願いをしに来たのだ。

「うちの板前で……、というのも考えたのですが、やはり子どもが喜ぶ料理といえば、《りんごの木》さんだと思いましてな」
「買い被りすぎですよ、有栖川さん」

 りんごおじさんは遠慮がちに首を横に振っているけれど、その様子を見ていたましろは、おおいに納得していた。

 子どもに喜んでもらうメニューは、りんごおじさんがとても大切にしていることだ。それにりんごおじさん本人も子どもが大好きだから、料理教室の先生にぴったりだと思ったのだ。

「りんごおじさん、がんばってね!」
「ましろちゃん。当日、待っているぞ。友達とおいで」 

 アリスパパに肩を力強く叩かれ、ましろは「えっ」と固まってしまった。

「わたし、参加するの?」
「待っているぞ」

 今度は、力強くうなずくアリスパパ。

 圧がすごい。

 これは、イヤでも行かなきゃいけないかんじ?

 チラリとりんごおじさんに助けを求めたけれど、「楽しみですね」とあっさり巻き込まれてしまった。

 まぁ、りんごおじさんの顔も立ててあげないといけないし、行ってあげるか。