「ねぇ、シエラ。私だって、あなたが羨ましいんだから。演じなくったって、魅力的なあなたが……。だから……」
「うん。ありがと、アスタ! 昨日は八つ当たりしちゃってごめんね。シエラ、もう大丈夫だから!」

 シエラの明るい声に、アスタはむしろ拍子抜けした様子だった。思わずサングラスを外して、目をぱちくりさせている。

「いったい何があったのよ?」
「えへへ。シエラ、《りんごの木》のウエイトレスさんのおかげで、元気になったんだ~!」

 シエラにぽんぽんと肩を叩かれ、ましろは「ひゃっ!」と飛び上がった。

「わたし、何も……」
「《りんごの木》さんには、お世話になりっぱなしね。ありがとうございました」
「ありがとうございました~」

 アスタとシエラは、丁寧にましろとりんごおじさんに頭を下げた。普通ではありえない状況に、ましろは戸惑ってしまう。
 そしてりんごおじさんをチラリと見上げると、りんごおじさんは茶色い紙包を灰咲姉妹に手渡していた。

「良かったら、帰りに召し上がってください」
「え~、なになにぃ~? シエラ、おなか空いちゃった!」
「ちょっとシエラってば! 行儀が悪いわよ!」

 なんだろう? と、ましろは紙包から出てきたものを、じぃっと見つめた。

 それは、コロッケだった。

「【シンデレラのかぼちゃコロッケ】です。食べ歩きといえば、コロッケです。今日くらい、お行儀が悪くてもいいんじゃないですか?」

 りんごおじさんは、にこにこと笑った。




 ***
 数日後、ましろはりんごおじさんと家でかぼちゃコロッケを作って食べていた。プレーン、チーズ入り、カレー味、ひき肉入りの四種類だ。

「コロッケって、おやつにもおかずにもなるし、楽しい食べ物だよね!」
「そうですねぇ。僕が子どものころは、いつも姉さんと取り合ってましたよ。本当にケンカが多くて」
「うそ! お母さんとりんごおじさんが? 想像できない」

 ましろが驚くと、りんごおじさんはクスクスと笑った。

「食べ物のこととなると、譲れなかったんです。僕も姉も、食い意地が張ってましたから」
「ふふふ。おばあちゃんのお料理、おいしいもんね」

 自分の知らないお母さんを知ったようで、ましろは少しうれしくなった。思わず、ほっぺたが緩んでしまう。