「だって、あんなにたくさん食べて、笑って、周りの人を明るくできるんだよ! 商店街の人たちも、とっても楽しそうだった! そんなことができる人って、なかなかいないよ!」
「……ありがとう。ましろちゃん」

 シエラはましろの言葉を噛みしめるように目を閉じて、ベンチにもたれた。金色の髪が太陽の光を受けて、キラキラと輝いていた。

「食べ歩き、めーっちゃ楽しかった。シエラだけじゃなくて、周りの人も楽しいって、うれしいなぁ……。ちょっとやりたいこと、見えたかも」
「やりたいことって──?」

 ましろが言いかけた時、白鷺川に架かる橋の上から、こちらに向かって叫ぶ声がした。

「シエラーーっ! やっと見つけたわよ!」
「あっ、アスタ!」

 シエラは、ベンチから飛び上がるように立ち上がった。

 アスタって、灰咲アスタ……?

 ましろは橋の上にいる金髪サングラスの女性と、隣のシエラをキョロキョロと見比べた。

「灰咲姉妹がそろっちゃった!」




***
「妹さんと会えてよかったです」

 にこにことほほ笑むのは、りんごおじさん。どうやらアスタをここまで連れて来たのは、りんごおじさんらしい。赤いエプロンを付けたままなので、河川敷で目立ってしまっている。

「アスタさんが《りんごの木》に来られて、シエラさんを探しているとおっしゃったので。ちょっと時間がかかってしまいましたね」
「いえ。おかげで助かりました」

 サングラスをかけているけれど、アスタは妹のシエラとそっくりの美人だ。シエラがプリンセスなら、アスタは女王様みたいに見える。

「なんで、アスタがここに……」

 シエラは気まずそうにたずねたが、それはましろも気になっていた。

「シエラが突然いなくなるからでしょ!」
「うそ! 仕事は? 今日、ドラマの撮影じゃなかった?」
「時間ずらしてもらったから、この後すぐに移動する。昨日、大ケンカしたから心配で……」
「アスタ、シエラのために?」
「SNSで、目撃情報がたくさん入って来たから! 身バレする前に連れ戻さないといけないって思ったのよ!」

 アスタは照れくさそうにそっぽを向いたけれど、ホッとしているようだった。