「えぇ! シエラちゃん、どうしたの? おなか痛い?」
「めーっちゃ食べたけど、お腹は元気だよ」

 シエラは、木でできたベンチにすとんと腰かけると、「はぁぁぁぁ~」と大きなため息をついた。

「ましろちゃんと商店街を食べ歩きして、めっちゃ楽しかった。出会う人みんなが親切だし、食べ物はおいしいし。イヤなこと忘れて、はしゃいじゃった」
「イヤなことって?」

 ましろは聞こうかどうか迷ったけれど、シエラが他人に悩みを話すことで楽になったらいいなと思い、理由を尋ねた。

「ましろちゃん、きょうだいはいる?」
「いません……」
「そっか。じゃあ、ちょっと想像しにくいかもしれないね」

 シエラは手招きして、ましろをベンチの隣に座らせた。そして、ましろから受け取ったハンカチで、涙をぬぐう。

「アスタのことは知ってるよね? シエラの双子のお姉ちゃん」

「もちろんです」と、ましろはうなずいた。

「美人で、スタイルもよくて、ドラマたくさん出てますよね。クラスでも、アスタちゃんのファンの子がいっぱいいます」
「そーそー。めーっちゃすごいんだ、アスタは。なんでもできちゃう優等生。シエラと違って……」

 シエラの顔が暗くなる。

「そんな! シエラちゃんだって、かわいくて人気者だし……!」
「でも、アスタには敵わないよ! アスタに負けたくなくて、いっぱいドラマとか舞台のオーディションを受けたけど、ぜんっぜんダメ! シエラは、お芝居が苦手なの! 灰咲姉妹の『じゃない方』とか言われてるんだよ!」

 ましろは、シエラのつらそうな言葉に黙るしかなかった。優秀な誰かと比べられるのは、ましろだってイヤだ。きっと、苦しくて悲しい気持ちになる。

「なんでアスタはできるんだろう。ずるいよ、うらやましいよ。なんでシエラは、アスタみたいにできないの?」
「シエラちゃんにはシエラちゃんの良いところがあるよ!」

 悲しそうなシエラの手を、ましろはぎゅっと握った。お世辞や気休めではなく、本気で思ったことだった。

「わたしは、自然なシエラちゃんがいいと思った! えっと、お芝居を否定するわけじゃなくて、飾らないシエラちゃんってことなんだけど」
「どういうこと?」