もちろん、ましろは大喜びだ。「ずりぃぞ!」と悔しがるアリス君には申し訳ないけれど、嬉しくてたまらない。

 ランチを運ぶ足取りも、とても軽い。

「お待たせしました! 【ジャックと豆の木サラダ】ランチです。色んな種類の豆とおとうふ、蒸したとり肉たっぷりのサラダです。自家製フレンチドレッシングはお好みの量をどうぞ。パンはお代わり自由です。リンゴジュースはサービスです」

 よし! 言えた!

 昨日の夜に、がんばって覚えたかいがある。

「わ~い! おいしそ~! さ、あなたも座って」

 シエラに勧められ、ましろは正面に座らさせてもらった。

「小さいのにえらいね。名前は?」
「白雪ましろ、です!」
「そっか~。ましろちゃんか~。可愛い」
「シエラちゃんの方が、ずっとずっとかわいいです!」
「あはは! 照れちゃうな」

 やっぱりシエラちゃん、かわいい! 目、おっきい。まつ毛長いなぁ。

 真正面からシエラを見つめたいけれど、ドキドキしてしまって、チラチラとしか顔を上げることができない。
 一方、シエラはもりもりとサラダを食べ進めていた。その食べっぷりは見ていて気持ちがいい。テレビで見るていた時よりも、弾けた感じがする。

「ん~! めっちゃおいしい! ヘルシーそうなのに、お肉の味がしっかりしてて食べ応えがあるぅ! あと、この豆! 色んな食感があって面白いね~。ドレッシングと合う~」

 すっごくおいしそうに食べるなぁ。

「よかったです。りんごおじ……、店長も喜ぶと思います!」
「ホント、おいしい。インスタにアップ……は、ダメなんだった。ごめんね、お忍びで来てるから」

「お忍び」ということは、ないしょで来ているということだ。

「お仕事じゃないんですね。ドラマとか映画の撮影かと思いました」

 ましろが言うと、パッとシエラの表情が曇った。

「違うよ。シエラは、アスタみたいにお芝居が上手じゃないもん」

 あれ……。シエラちゃん、元気ない。

 明らかにしょんぼりしたシエラは、一気にサラダを食べてしまうと、スマートフォンを取り出してましろに写真を見せてくれた。

「シエラは観光で来たんだよ。ホラ、朝イチでジシャブッカクめぐりしたんだから」

 寺社仏閣という言葉を使い慣れていないかんじがにじみ出ていたけれど、ウソではなさそうだった。