ましろは笑いながら「そういえば」と、ひとつ思い出した。

「りんごおじさんって、お母さんと連絡取ってたんだね。わたし、お母さんからおじさんのこと、ほとんど聞いたことなかったのに」

 ましろは、お母さんから、そしておじいちゃんとおばあちゃんからも、「凛悟は料理が上手くてねぇ」くらいしか聞いたことがなかったし、おじさんと会ったのはお母さんのお葬式が初めてだった。

「ましろさんのお母さんの電話は、年に一、二回ですかね。ましろさんの話をたまに聞くと、いつの間にか大きくなっているんだなぁと、たびたび思っていましたよ」

 りんごおじさんは、なつかしそうに「うんうん」とうなずきながら言った。

「ふぅん。遊びに来てくれたらよかったのに」
「少し、難しかったんです。外国──、フランスでお店を出していたので」
「へぇ! どんなお店?」
「グランメゾン、と言っても分かりませんよね」

 きょとんとするましろを見て、りんごおじさんはていねいに説明してくれた。

「グランメゾンは、高級なフランス料理屋さんという意味です。ドレスコードといって、こういう服を着ましょう、というのが決まっていたり、小さい子は入れなかったりするんです」
「なにそれ! もしかしてわたし、入れない?!」
「残念ながら……」

 高級でとってもおいしい料理が食べられるのかもしれないが、ましろにとっては、そんな堅苦しいお店は楽しくない。

 そもそも、入れないなんて困るよ!

「なんか、りんごおじさんに似合わないお店だね」
「あはは。でしょう? だから僕は、日本でファミリーレストランを始めたんですよ。家族みんなでにぎやかに食事ができる《りんごの木》を」
「そうだったんだね。その方が、絶対楽しいよ!」

 ましろが言うと、りんごおじさんは微笑みながらうなずいた。