「【大きなかぶの肉詰め】は、文字通り大きなかぶを使っているので、家族で仲良く分け合って食べる料理なんですよ」

 ふと、りんごおじさんが言った。目線の先には、琥太郎君に大きい方を取り分ける琥太郎君のお父さんの姿があった。

「これからは寂しい想いをさせないように、父ちゃん頑張るからな!」
「分かったって。いいから食べようぜ!」


 そんな楽しそうな親子の会話が聞こえて来て、ましろはつい、「もしもお父さんが家を出ていかなかったら……」と考えてしまった。
 お父さんとましろの二人だけだったら、お父さんはどんな言葉をかけてくれただろう。

『ましろが寂しくないように、父さん頑張るよ』とか?

 あの、ガラス玉みたいな目で?

 ダメだ、想像できない……と、ましろはぼんやりとモヤがかったイメージを首をぶんぶんと振って、思いっきり振り払った。昔のこと過ぎて、もう好きとか嫌いとか、そういう感情があるわけじゃない。それは、お母さんがお父さんの悪口を一度も言わなかったからかもしれない。

 けれど、少しだけ。ましろの心の中には、今でも少しだけお父さん――美鏡七人(みかがみななひと)さんのスペースが残っていて、それはどうしてもなくなることがない。

 元気、なのかなぁ……。



 ***
 琥太郎君たちを見送り、ましろとりんごおじさんはマンションに帰った。

 そして、ましろがきれいに片付けたダイニングテーブルに、《りんごの木》で作った【大きなかぶの肉詰め】とパンの残りを並べて、晩ごはんの始まりだ。

「お味はいかがですか?」
「う~ん! すっごくおいしい! お肉がジューシーだね!」

 ましろは、りんごおじさんが切り分けてくれたかぶの肉詰めを、ぱくぱくと口に運んだ。

「わたしとりんごおじさんも、仲良く分け合って食べてるね!」

 ましろはパッと思いつくままに言ったが、言ってから少し恥ずかしくなった。

 でも、いいか。そうだもんね。

 ましろは、りんごおじさんがましろのためにご飯を作ってくれている姿を見るたびに、胸があたたかくなっていた。

 お母さんでもお父さんでもないし、出会って間もないけど、りんごおじさんがわたしを大切にして想ってくれてること、分かってるからね。

「ましろさん、にこにこですね」
「えへへ。今、そんな気分なんだ」