りんごおじさんは、他のテーブルにたくさんのお皿とグラスを並べてキュッキュッと布で磨いている。その音はとてもリズミカルで、聴いているましろは楽しくなってくる。
「授業参観は、お仕事を抜けて来てくれてたんだよね。間に合ってなかったけど……。夜ご飯はきっと来てくれるよ!」
「父ちゃん、来るかどうかあやしいって。仕事が忙しくて、帰って来るのも遅いし、学校の行事も全然来ない。いーっつも、行く行くってウソつく」
琥太郎君は、ピーチタルトを名残惜しそうに食べ切ると、甘いミルクティーをごくごくと飲み干した。
あの後、琥太郎君のお父さんとは、残りの仕事を片付けて、夜ご飯の時間には《りんごの木》に来るという約束をして別れた。
「コタ! 六時には行くから、待っててくれ。絶対に行くからな! すごいご馳走食べような!」
琥太郎君のお父さんは力強くそう言うと、大急ぎで会社に戻って行ったのだ。
そして、琥太郎君は《りんごの木》でお父さんが来るのを待っている。
「参観日は絶対に行くって、言ってたくせに……。おれのことなんて、どうでもいいんだ」
「そんなことないよ! お父さん、琥太郎君のこと大事だよ!」
「うぅん。きっと父ちゃんは、おれなんていなかったら自由なのに、って思ってる。母ちゃんみたいに、子どもから解放されたいって思ってるんだ」
ましろの胸が、ズキンと痛んだ。
ましろがとても小さいころに、ましろのお父さんは家を出て行った。
『もう疲れたんだ。自由にさせてくれ』
そう言って、ましろとお母さんを置いて行った。もう顔は覚えていないけれど、あの時のお父さんの言葉と、ガラス玉みたいな瞳をましろは忘れることができない。
だから一瞬、琥太郎君に何と言ったらいいか分からなくなってしまった。
「君のお父さんは、君のことが大好きですよ」
静かな空間で口を開いたのは、りんごおじさんだ。
磨き終わったグラスを棚にしまうと、エプロンのポケットから、走り書きのような字が書いてあるメモを取り出した。
「なにそれ?」
「お父さんが僕にくれたんですよ。君の好きな食べ物、苦手な食べ物、アレルギー……。楽しい夜ご飯になるように、お父さんなりに考えてくれたんですね。大事な家族のためじゃないと、できないことですよ」
「授業参観は、お仕事を抜けて来てくれてたんだよね。間に合ってなかったけど……。夜ご飯はきっと来てくれるよ!」
「父ちゃん、来るかどうかあやしいって。仕事が忙しくて、帰って来るのも遅いし、学校の行事も全然来ない。いーっつも、行く行くってウソつく」
琥太郎君は、ピーチタルトを名残惜しそうに食べ切ると、甘いミルクティーをごくごくと飲み干した。
あの後、琥太郎君のお父さんとは、残りの仕事を片付けて、夜ご飯の時間には《りんごの木》に来るという約束をして別れた。
「コタ! 六時には行くから、待っててくれ。絶対に行くからな! すごいご馳走食べような!」
琥太郎君のお父さんは力強くそう言うと、大急ぎで会社に戻って行ったのだ。
そして、琥太郎君は《りんごの木》でお父さんが来るのを待っている。
「参観日は絶対に行くって、言ってたくせに……。おれのことなんて、どうでもいいんだ」
「そんなことないよ! お父さん、琥太郎君のこと大事だよ!」
「うぅん。きっと父ちゃんは、おれなんていなかったら自由なのに、って思ってる。母ちゃんみたいに、子どもから解放されたいって思ってるんだ」
ましろの胸が、ズキンと痛んだ。
ましろがとても小さいころに、ましろのお父さんは家を出て行った。
『もう疲れたんだ。自由にさせてくれ』
そう言って、ましろとお母さんを置いて行った。もう顔は覚えていないけれど、あの時のお父さんの言葉と、ガラス玉みたいな瞳をましろは忘れることができない。
だから一瞬、琥太郎君に何と言ったらいいか分からなくなってしまった。
「君のお父さんは、君のことが大好きですよ」
静かな空間で口を開いたのは、りんごおじさんだ。
磨き終わったグラスを棚にしまうと、エプロンのポケットから、走り書きのような字が書いてあるメモを取り出した。
「なにそれ?」
「お父さんが僕にくれたんですよ。君の好きな食べ物、苦手な食べ物、アレルギー……。楽しい夜ご飯になるように、お父さんなりに考えてくれたんですね。大事な家族のためじゃないと、できないことですよ」



