抹茶ロールケーキは当初よりも少しだけスリムになって、少し短い一本が大皿に横たわっている。そして、緑色の生地に粉砂糖が竹の節のようにかけられていて、ますます竹にそっくりだ。アリス君はそれを真ん中でスッとナイフでななめにカットして、断面に大つぶの真っ赤な苺を乗せた。

「まぁ、かわいい」

 アリスママが、楽しそうな声を漏らした。

 アリス君は、ななめに半分に切った抹茶ロールケーキを一つずつ縦方向に小皿に盛り付け、周りに金箔を散らした。そして、赤色と黄色の扇子の形をしたアイシングクッキーを抹茶ロールケーキに添える。

 すると、抹茶ロールケーキはまるで割られた竹! 輝く苺のかぐや姫!

「どうぞ。召し上がれ」

 アリス君は緊張がなくなったのか、胸を張ってお皿を差し出した。

 ましろはアリス君の分までドキドキしながら、アリスパパとアリスママが抹茶ロールケーキを食べる様子を見守った。

 どうか、わくわく楽しく食べて! おいしいって言って!

「…………白兎」

 アリスパパが呟くように言う。

「このロールケーキは、誰に食べてもらおうと思って作った?」

 アリスパパとアリスママじゃないの?

 ましろはアリスパパの質問を不思議に思ったが、すぐに答えは分かった。

「……男も女も関係ない。全世代。オレが一番好きな場所に来てくれる人たち」

 アリス君の好きな場所?

 なんだかなぞなぞみたいだが、ましろはハッとひらめいた。

「《かがみ屋》さん……?」
 ましろは思わず声に出してしまった。

 りんごおじさんは「しーっ」と静かにするようにとジェスチャーをしていたけれど、目では「そうですね」と言っていた。

「お前は、旅館が嫌いになったから、跡を継がないと言い出したのかと思っていたが」
「バカじゃねぇの」

 アリス君は毒づいてみせたが、顔は完全に照れていた。そっぽを向きながら、チラリとアリスパパを見ている。

「白兎は、ずっと《かがみ屋》が大好きよね。分かるわ。このロールケーキは、お客様に食べていただきたいと思って、作ってくれたのね」

 アリスママがほほ笑む。

「オレが生まれ育った場所なんだ。お客も従業員も好きに決まってんだろ。跡は継げないけど、パティシエとして《かがみ屋》に貢献したい……ってのは、ダメなのかよ?」