りんごおじさんから赤いエプロンをもらい、ましろはドキドキしながら身に付けた。恩田さんに手直ししてもらったため、サイズはぴったりだし、新しくりんごおじさんに買ってもらった靴も、足にぴったりだ。そして、ふわふわの髪はアリス君がポニーテールにしてくれた。なんだか、大人の仲間入りをした気分になる。

 わぁ! うれしい!

「えへへ! 似合う?」
「ええ。立派です」

 明日がデビューかと思っていたが、まさかアリス君の大切な日にウェイトレスをさせてもらえるとは思っていなかった。

「頼むぞ、ましろ! 父さんと母さんを笑わせて来い!」

 そんな任務はお断りだと思いながら、ましろはアリス君からスイーツの大きなお皿を一皿受け取った。そして、トレーに乗せてゆっくり気を付けて運んで行く。たった数メートルの距離が、何十メートルにも感じられる。

 チラッと見ると、アリスパパとアリスママは、お店の真ん中のテーブルで、にこにこしながらましろを見守っていた。

「笑わせる」は、これでいいのかな?

「お待たせしました! 【かぐや姫の抹茶ロール】です!」

 ましろがそっとお皿をテーブルに置くと、アリスパパとアリスママは、驚いて目を見開いた。

「本当だ。竹のようだな」
「竹だから、かぐや姫?」
「そうです! 色も香りもいいでしょ? おとぎ商店街のお茶屋さん自慢の抹茶を使ってるんですよ! それに、小豆もこの地域のブランド豆! だから、えっと、チサンチショウなんです」

 チサンチショウ──、地産地消とは、その地域で生産されたものを、その地域で消費するという意味だ。

 ましろはアリス君から聞いたばかりの言葉を、抹茶ロールケーキのアピールに使ったのだ。

 そして、次は打ち合わせ通り。

「当店のパティシエ見習いのアリス君が、仕上げをさせていただきます」

 ましろが言うと、キッチンからアリス君がやって来た。少しだけ緊張しているみたいだ。

「お前がパティシエ見習いとはな」

 アリスパパの言葉が嫌味に聞こえたのか、アリス君はムッとしたようだったけれど、「そうだよ」とだけ短く返事をしていた。

 がんばれ、アリス君! と、ましろはお祈りのポーズをしながら、アリス君の手元を見つめる。