「あー! これ、面白いかも。わくわくかも」
「えっ、なになに? どんなの?」
「接客のテストに合格したら、教えてやるよ」

 アリス君は「わくわくしてきた」と、ニヤッといたずらっぽく笑った。




 **アリス**

 小学生低学年くらいだっただろうか?

 仕事の手伝いをしようと、仲居さんや板前さんたちに付きまとった。
 送迎バスに勝手に忍び込み、サプライヤーでバスガイドをした。
 宿泊の想いでにと、廊下でお客さんをつかまえては渾身のギャグを披露した。
 二階の窓から瓦屋根に上ることが好きで、そこからお客さんを見送った。
 母には呆れられ、父には散々叱られた。

 あぁ、今思えば黒歴史。恥ずかしくてしかたない。
 でも、全部全部楽しかった。旅館の人たちも、お客さんたちも優しくて、オレも、みんなが笑ってくれるのが嬉しくて……。

 今だって、みんなのことが大好きだ。父さんの跡を継ぐ気はないけど、オレなりに《かがみ屋》のためにできることを考えてたんだ。……誰にも言わなかったけどさ。

「ましろが言うみたいに、父さん、分かってくれんのかなぁ」

 つい、不安が口から飛び出してしまったが、「じゃあ、出たまま消えちまえ」と白兎はシッシを手をひらひらさせる。

 大丈夫だ。きっと伝わる。――いや、伝えるんだ!

 白兎は、《かがみ屋》のシンボルである緑の鮮やかな竹林を遠目に見つめながら、強くうなずいた。




 ***
 土曜日のティータイム。
 本当なら、ファミリーレストラン《りんごの木》は、ディナータイムに向けて一度お店を閉める時間だ。

 けれど、今日はアリスパパとアリスママが来る日。アリス君の本気でパティシエになりたいという気持ちを見てもらう日なので、りんごおじさん、アリス君、ましろはお店に来ていた。

 りんごおじさんは審査の見届け人、もちろんアリス君はスイーツを作る役で、そしてましろは、なんとウェイトレスを務めることになった。

「わ、わたしがやっていいの?」
「アリス君のテストに合格したなら、大丈夫ですよ。僕が近くで見てますから、安心してください」