「小豆クリームだからな。上品な和菓子の甘さと洋菓子のなめらかさを合わせてみた」
「いいとこ取りのコラボだね!」

 ましろは、アリス君の解説にうなずきながら、ロールケーキをフォークでひと口ぱくりと食べた。

「おいしいー! すっごくおいしい!」

 ケーキの部分はふわふわで、クリームはスッととろける。そして抹茶と小豆の風味はちゃんと口の中に残っている。

 これは大人も子どもも関係なく、好きな味だろう。

「おいしいおいしいだけじゃなくて、なんか他にないのかよ。ホラ、おかわりやるから」

 アリス君はましろの感想を求めて、新しい一切れを用意しようとしてくれた。けれど、ましろは「うーん」とおかわりをためらってしまう。

「もう、おなかが満足かな」
「はっ? お前、こないだのカップケーキはペロッと食ってたのに?」

 アリス君は驚いて目を丸くしていたが、実はましろ自身も驚いていた。

 別に、ロールケーキは甘すぎるわけでも、濃厚すぎるわけでもない。量も普通だし、おなかの空き具合もそれほど変わらない。

 けれど、アリス君のカップケーキや、りんごおじさんの料理のように、もっと食べたい! という気持ちが、いまひとつ弾けない。

 ましろは頭をひねって考え、ひとつひらめいた。

「カップケーキも、りんごおじさんのご飯も、わくわくした!」
「わくわくぅ?」

 アリス君は、目付きの悪い目をぱちくりした。

「アリス君! このロールケーキの名前は?」
「えっと……。【抹茶ロールケーキ】?」

「ほらほら! つまんないよ。りんごおじさんは、料理の名前は子どもたちが喜んでくれて、家族の話題になるように考えるって言ってたよ。そういうのがないんだよ」
「んなこと言われても……」

 そう言いながらも、アリス君は真剣な顔になっていた。

「たしかに、地味だよな。華もないし、味も短調だ」
「あっ! じゃあ、和風の飾りなんてどう?」

 ましろの頭にパッと浮かんだのは、お正月の門松だ。最近のものは、カラフルなお花や水引きが使われていて、竹の緑色にとっても映えて華やかだ。年中飾っておきたいと思ったこともある。

「抹茶の色って、竹の緑色みたいだし」
「なるほどなぁ。たしかに《かがみ屋》の門松もきれいだったな……」

 そこまで言って、今度はアリス君がひらめいた。