「僕は、ましろさんとアリス君を解放してもらうべく、カップケーキを手土産に《かがみ屋》さんに行ったわけです」
「店長、うちに来てたんすか? カップケーキ持って?」
「手ぶらで伺うわけにも行きませんよ。ちょうど君がたくさんストックを作っていてくれたのが、幸いでした。まぁ、君たちとは行き違いになっていましたが」

 りんごおじさんはさも当たり前かのように話したが、アリス君は大慌てだ。サラサラのチョコレート色の髪の毛を、手でわしゃわしゃにして、「マジかよーっ」と叫んでいる。

「君のご両親は、君がお店に下宿していることを心配されていましたが、大丈夫ですと伝えました。そして、カップケーキを召し上がっていただきました」

 問題はそこだ。

 ましろはドキドキしながら息を飲む。

「たいへんおいしいと、驚かれていました」

 りんごおじさんの言葉に、ましろとアリス君はホッと全身の力が抜けた。けれど、それでご両親に認めてもらって、めでたしめでたしとはいかなかったらしい。

「パティシエになりたいのなら、正式に審査会をして、アリス君の本気を確かめたい、と。というわけで、土曜日のティータイムに《りんごの木》で、アリス君の新作スイーツ審査会を開催します!」
「へ……?」

 アリス君の目は、今までで一番まん丸だ。

「意味が分からないっす」
「ご両親を、君のスイーツで納得させてくだい」
「土曜日って、早すぎじゃないっすか」
「君の本気を見せましょう」
「店長、手伝ってくれるんですよね?」
「とんでもない。君のための会ですよ。ちなみに、不合格ならアルバイトを辞めるということになりました」
「えー! ひどっ! 店長ひどっいっす!」

 テンポのいい会話に、ましろは二人をキョロキョロと見比べた。

 アリス君はとっても困っているけれど、多分、りんごおじさんはアリス君のために動いたのだ。そのことだけは分かる。

 ちゃんとお話しして、仲直りするチャンスだもんね!

「アリス君、がんばろう! わたし、こっそり手伝うから!」
「お前、こっそりの意味、分かってないだろ」

 大丈夫。りんごおじさんは、耳をふさいでるから。