「そんなことないよ。アリス君だって、ほんとは分かってもらいたいから、悲しそうなんでしょ? だったらお話してみようよ!」
「いいって。意味ねぇって」

 アリス君は、なかなか頑固だ。

 煮え切らないアリス君に、ましろはだんだんムッとしてきてしまう。ずるいと思ったのだ。

「アリス君は、お父さんとお母さんといつでも話せるんだから、話さないとダメだよ……!」

 言うつもりのなかった言葉が、気づくと勝手に口から飛び出していた。

「なんだよ、その言い方。……お前、もしかして……」

 アリス君はハッとした様子で、口をつぐんだ。

 そしてその代わりに、ましろが口を開く。

「お父さんは、わたしが小さいころに離婚してていない。お母さんは、少し前に事故で亡くなっちゃった」

 言いながら、悲しくなってくる。

 お母さんとは、もう話すことができない。顔を見ることもできない。

「だから、ずるいよ。アリス君は」
「ごめん、ましろ」
「うぅん……。わたしに謝らなくていいから、アリスパパとちゃんとお話してほしいな。アリス君のパパさんだもん。きっと大丈夫だよ。ね?」

 ましろはアリス君にツカツカと近寄り、その顔を上目遣いでじぃっと見つめた。無言の圧力というやつだ。

「わ、分かったって!」

 ましろの言葉が響いたのか、それとも単純に圧に耐えられなくなったのか、アリス君は困り顔で渋々うなずいた。

「でも、いまさらどうやって話せばいいのか分かんねぇ」
「それに関しては、僕から」

 絶妙なタイミングでバックヤードのドアが開き、外から入って来たのはりんごおじさんだ。

「あれ、りんごおじさん、お店にいたんじゃないの?」
「ランチの片付けは恩田さんに任せて、用事を済ませて来ました。ご近所さんから、誰かさんたちが《かがみ屋》さんに誘拐されたという情報をいただきまして」 

 ひぇっ! りんごおじさん怖い。笑ってるけど目が笑ってない。

「りんごおじさん、ごめんね! 心配かけちゃった」
「すんません! オレが巻き込みました!」

 二人そろって一生懸命に謝ると、「恩田さんにお礼を言うように」と、りんごおじさんは鋭く言った。すると、ひとまず怒りの色は消え、りんごおじさんはいつもの眠たそうな目に戻る。