正直に言うと、よそのお家のことに口を出すのは良くないとも思った。けれど、それ以上にアリス君を助けたいと、心の底から思ったのだ。

「アリス君のカップケーキ、とってもおいしいんです! 食べたら分かります」

 だって、アリス君、昨日あんなにうれしそうだったもん。アリス君は本気だもん。

「だから、今はどいてくださーいっ!」

 ましろはふすまの前に仁王立ちしているサングラスマンに体当たりした──、けれど簡単に受け止められてしまったので、パンチ攻撃に切り替えた。

「アリス君、今のうちに行って!」
「ばっか! そんなん効くかよ! 行くぞ!」

 アリス君はましろの首根っこをつかむと、素早くサングラスマンたちの間を走り抜けた。

「ママさん、パパさん、ごめんなさーいっ!」

 ましろの謝る声が旅館の廊下に響いたが、幸い誰も追いかけては来なかった。


***
「ありがとな、ましろ。おかげで助かった」

 アリス君は《りんごの木》に着くと、ましろにお礼を言った。

「アリス君て、旅館のお坊ちゃんだったんだね」
「その言い方やめろ。ナメられる」

 誰がナメるんだろうと思ったが、ましろは口に出すのをやめた。アリス君が、落ちこんだ顔をしていたからだ。

 そして、バックヤードで赤いエプロンを付けながら、アリス君は少しずつアリスパパの話をしてくれた。

「父さんは、オレを思い通りにしたいんだよ。あぁしろ、こうしろってうるさい。オレは、父さんの人形じゃない」
「パパさん、ほんとにそうなのかなぁ……」
「そうなんだよ。オレが、自分の思う跡継ぎにならないのが気に食わねぇんだ」

 アリス君の言うことは、アリスママが言っていたこととちょっと違う気がする。

 多分、アリスパパは旅館を継ぐと言ったアリス君のために、できること全部を勉強させてあげようとしたんだと思う。

 でも、アリス君は新しくやりたいことを見つけてしまって、アリスパパの期待に応えられなくなってしまった。

「ちゃんとお話しないから、気持ちがすれ違っちゃうんじゃない?」

 アリス君がお店でデザートを作っていることも、専門学校やフランスで勉強したいと思っていることも、アリスパパは知らない。だから、アリス君の本気は伝わらない。

「あんなバカ親父、話してもムダだ」