りんごおじさんが、アリス君の夢を上書きしちゃったんだ!

 ましろは、自分がりんごおじさんの姪ということで、なんだかアリスパパとアリスママに申しわけなくなってしまった。

「うちのおじさんがすみません……」
「何か言った? ましろちゃん」
「い、いえ。何も!」

 ましろはあわてて首を横に振った。

「でもわたし、アリス君は本気だと思います。お店のデザートはアリス君が作ってるし、わたしにも、おいしいカップケーキを食べさせてくれました!」
「まぁ! 本当に?」
「はい! 専門学校に行って、フランスにも行きたいって言ってました」
「フランス⁈ そんなこと、あの子の口から聞いたことないわ。どうして言ってくれなかったのかしら……」

 アリスママは、おっとりとした仕草で首をかしげ、ましろも真似をして「うーん」と首をひねる。

「言ってもムダだからだよ」

 気がつくと、頭の上からアリス君の影が落ちていた。アリス君は無理矢理に縄を引きちぎったらしく、少し痛そうに腕をさすっている。

「頭でっかちの父さんは、何話してもムダ。だからオレは、さっさと金を貯めて、こんな家出て行く!」

 アリス君は怖い顔で言い放ち、「ましろ、帰るぞ!」とましろの腕をつかんで立たせた。

「白兎、あんたは……」

 アリスママがあわてて止めようとしたけれど、アリス君はぷいっと背中を向けてしまった。

「待て! もうアルバイトの店には二度と行かせん。うちで勉強だ!」

 アリスパパがバンッと机を叩くと、部屋の外にいたサングラスマンたちがふすまを開けて入って来た。

 ど、どうしよう!

 悲しそうなアリスママと怒っているアリスパパとアリス君を見て、ましろは何とかして仲直りしてほしいと思った。しかし──。

「どけよ! オレが行かなきゃ、店長もお客さんも困るんだよ!」

 そうだよ! 《りんごの木》には、アリス君が必要なんだ!

 ましろが初めてお店でご飯を食べた日、アリス君はとっても優しくて、キラキラして見えた。ましろがお店で働きたいと思った理由には、アリス君だって含まれているのだ。

「アリス君を、《りんごの木》に行かせてあげてください!」

 ましろは思わず、大きな声で叫んだ。