アリス君はジタバタと暴れているけれど、ましろはそんなアリス君を見ていて、逆に落ち着いてきてしまった。

 どこに連れて行かれるのかな? と、わっしょいわっしょいと上下する景色を見ていると、着いた場所は緑がきれいな竹に囲まれた、大きな大きな旅館だった。

「《かがみ屋》……」

 ましろが旅館の看板を読み上げると、アリス君が「オレの家」とぐったりしながら言った。

「そして私は《かがみ屋》の支配人だ」

 アリスパパの声が、下の方から聞こえてきた。

「ていうことは、アリス君は旅館の跡取り息子さん?」
「そうだ。……そうなのだが、君はどこの子だ?」

 こちらを見上げるアリスパパは、今までましろの存在に気がついていなかったらしい。びっくりした顔で、ましろを見つめていた。

「えっと……白雪ましろです。こんにちは」
 

***
 ましろは、サングラスマンたちにていねいにエスコートされて、旅館の一番奥の部屋に案内された。とても広くて畳のいいにおいがするだけでなく、ふすまや生け花なんかも豪華な部屋だ。

 そこにちょこんと座るましろの前には、たくさんのおいしそうな和菓子が並んでいる。

「わぁ! おいしそう!」
「ましろちゃん、好きなだけ食べていいからね」
「間違えて連れて来ちゃったおわびよ。うちの職人さんの自信作」

 さぁさぁとすすめてくれるのは、旅館の支配人の有栖川三月さんと、女将さんの有栖川心さん。つまり、アリスパパとアリスママだ。

「いやぁ~。やっぱり女の子はかわいいなぁ」
「『いやぁ~』じゃねぇよ! 無理矢理連れて来て、何様だ!」

 にこにこのアリスパパに猛抗議するアリス君は、縄で縛られてイモムシみたいに転がっていた。助けてあげたいけれど、部屋の外にはサングラスマンたちが控えているようで、なかなか手が出せない。

「何様はお前だ、白兎! 家を勝手に出て行ったきり何の連絡もせずに、いったいどういうつもりだ!」
「うるせぇ! そっちがオレの話聞かないからだ!」

 え! アリス君、家に帰ってなかったの?

 ましろはアリスパパの言葉に驚いて、アリス君の方を見た。

「アリス君、バイトには毎日来てたのに、どこで寝てたの⁈」
「店の二階……」

 知らなかった! アリス君、お店に住んでたんだ!