「ましろの保証で、ホントにパティシエになれたらいいんだけどな。世の中、厳しくて難しいんだぜ?」

 アリス君は、なぜかちょっとだけしょんぼりとした顔をした。しかし、それはほんの一瞬のことで、すぐにニヤッと笑ってみせた。

「オレのカップケーキで疲れもふっ飛んだだろ? 明日は注文を聞く練習するから、イメトレしとけ」
「うん! 分かった!」

 ましろは、赤いエプロンを付けるアリス君を見守りながら「あっ」と思い出した。

「ごちそうさまでした!」
「お前、えらいな」



***
 次の日の水曜日──、事件が起こった。

 小学校の帰り道、ましろがおとぎ商店街を歩いていると、見覚えのある人がすごい勢いで自転車で迫って来たのだ。

「うぉぉぉぉーーっ!」

 アリス君が、自転車を爆走させている。

「アリス君、 商店街は自転車に乗っちゃダメだよーっ!」

 ましろが叫ぶと、アリス君はこちらに気がついたようで、しぶしぶ自転車を降りて、全力でそれを押して走り始めた。シャーーーッという音がすごい。

「ましろっ! どけっ!」
「わたしもお店に行くから、いっしょに行こうよ」
「オレといると危険だ! どっかに隠れとけ!」

 わぁ! ドラマみたいなセリフだ! 

 ましろはお芝居かなぁとクスクス笑いながら、アリス君の横に並んで走った。

「文化祭の劇?」
「違う! マジのやつ……」

 とつぜんアリス君はぴたりと足を止めた。

 そして、目の前に立ちふさがるようにして仁王立ちしているのは、若草色の着物を着ている背の高い男の人だ。威厳がある……というか、分かりやすく怒った顔をしていて怖い。

「あのおじさん、誰?」
「オレの父親……。引き返すぞ! ましろ!」

 アリスパパ……?

 たしかに、目付きの悪いところがそっくりだ。

 ましろが声をあげるひまもなく、アリス君は自電車を方向転換させた──けれど、いつの間にか後ろには、サングラスにスーツ姿の男の人たちが十人くらい立っていたのだ。しかも、ムキムキで強そうな人たちばかり!

「つかまえろ!」

 アリスパパが叫ぶと、サングラスマンたちがワッと走りよって来て、アリス君と、ついでにましろを担ぎ上げてしまった。まるで、おみこしみたいだ。

「やめろー! 社会的に死ぬ!」