そう。ましろは今日から、おとぎ町に住んでいるりんごおじさんこと、白雪凛悟さんと一緒に暮らすのだ。はっきりと言うと、りんごおじさんは、ましろのホゴカントクセキニンシャ。あるいは、預かり人。だから、ましろはりんごおじさんを困らせないように、しっかりしなければいけないのだ。
「ましろさん。その……、お母さんのこと、本当に残念でした」
レストランのあるおとぎ商店街を歩きながら、りんごおじさんは言った。
メガネの向こうの眠たそうな目が、とても悲しそうにましろを見ているけれど、ましろは返す言葉が見つからず、ただ黙って笑顔を作ってうなずく。
「残念だね」、「かわいそうに」というような言葉は、何回言われても慣れることがない。
だってましろ自身は、お母さんが死んだなんて、今でも信じられないのだから。
***
二週間前──。桜が咲き始めたあたたかい日に、ましろは絵画教室を終え、お母さんの迎えを待っていた。
「お母さん、おそいなぁ」
スケッチブックの絵を何度も見返しながら、ましろは教室の窓から駐車場をながめていた。
今日描いた果物、とくにりんごは力作だ。色鉛筆を何色も使って、とてもきれいでおいしそうに描けた。
早くお母さんに見せたいなぁと思っていた時、ましろの所に、絵の先生が大あわてでやって来た。
「白雪さん! お母さんが病院に運ばれたそうよ!」
どういう意味か理解できず、ましろは先生の言ったことを頭の中でくり返した。
お母さんが、病院に。
パサリとスケッチブックが床に落ちた音とともに、ましろは血の気がサァーッと引いていくのを感じた。ただただ怖くてたまらなくなって、ましろはその場から動けなかった。
その後のことは、よく覚えていない。
警察の人が「トラックガタオレテ……」とか、お医者さんが「テハツクシマシタガ……」とか、看護師さんが「ナンテカワイソウナノ」とか、とにかくたくさんの言葉がましろの耳に入っては消え、入っては消えていった。
そしていつの間にか、遠い田舎に住むおじいちゃんとおばあちゃんがそばにいて、泣いていた。
「美姫、どうして死んだんだい……」
そうか、お母さんは交通事故で死んじゃったのか。
「ましろさん。その……、お母さんのこと、本当に残念でした」
レストランのあるおとぎ商店街を歩きながら、りんごおじさんは言った。
メガネの向こうの眠たそうな目が、とても悲しそうにましろを見ているけれど、ましろは返す言葉が見つからず、ただ黙って笑顔を作ってうなずく。
「残念だね」、「かわいそうに」というような言葉は、何回言われても慣れることがない。
だってましろ自身は、お母さんが死んだなんて、今でも信じられないのだから。
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二週間前──。桜が咲き始めたあたたかい日に、ましろは絵画教室を終え、お母さんの迎えを待っていた。
「お母さん、おそいなぁ」
スケッチブックの絵を何度も見返しながら、ましろは教室の窓から駐車場をながめていた。
今日描いた果物、とくにりんごは力作だ。色鉛筆を何色も使って、とてもきれいでおいしそうに描けた。
早くお母さんに見せたいなぁと思っていた時、ましろの所に、絵の先生が大あわてでやって来た。
「白雪さん! お母さんが病院に運ばれたそうよ!」
どういう意味か理解できず、ましろは先生の言ったことを頭の中でくり返した。
お母さんが、病院に。
パサリとスケッチブックが床に落ちた音とともに、ましろは血の気がサァーッと引いていくのを感じた。ただただ怖くてたまらなくなって、ましろはその場から動けなかった。
その後のことは、よく覚えていない。
警察の人が「トラックガタオレテ……」とか、お医者さんが「テハツクシマシタガ……」とか、看護師さんが「ナンテカワイソウナノ」とか、とにかくたくさんの言葉がましろの耳に入っては消え、入っては消えていった。
そしていつの間にか、遠い田舎に住むおじいちゃんとおばあちゃんがそばにいて、泣いていた。
「美姫、どうして死んだんだい……」
そうか、お母さんは交通事故で死んじゃったのか。