りんごおじさんは、にこやかにアドバイスをくれた。

「なるほどね。りんごおじさんになりきったつもりでやってみるよ」

 自信はないけれど、やるしかない! 
家に帰ったら、もう一回メニューの暗記だ!



 ***
「な……、なかなかやるな」

 火曜日の夕方、《りんごの木》のバックヤードには、アリス君の悔しそうなうなり声が響いた。

「ペーパーテスト、全問正解だ」
「やったー!」

 ましろは飛び上がって喜んだ。りんごおじさんのメニューノートを見て勉強したかいがある。

「どんな料理なのか、ちゃんと知った上で覚えてくれましたよ。まだ食べさせてあげることはできていないので、それは追々ですね」

 チラッと様子を見に来たりんごおじさんは、「頑張りましたね」と、うれしそうにましろをほめてくれた。

「店長が手伝うなんて、不正だ!」
「手伝ったらダメとは聞いてませんよ?」

 アリス君は不満そうだったが、りんごおじさんは楽しそうだ。そして、ましろはご機嫌だ。

「アリス君! 次は何する? 接客の練習?」
「うーん……。時間あるし、やるか。店長、店使わせてもらっていいっすか?」
「どうぞ。ディナータイムまで時間がありますから」

 アリス君は、仕方ないなというオーラを出しつつも、ましろに接客を教えてくれる気になったらしい。ましろをお店の中に連れて行き、気合いの入った声で「同じことは二回は言わないからな!」とましろに忠告した。

 そして、サラサラのチョコレート色の髪を手ぐしで整えて、
「まずは、お客さんが来た時。オレのん、見とけよ。……いらっしゃいませ!」
 と、きれいなお辞儀を見せてくれた。

 さっきまで猫背気味だったのに、背筋を伸ばして、顔付きも心なしか優しくなっている。まるで別人だ。

「いらっしゃいませー!」

 ましろも見様見真似でやってみたが、アリス君の目がとんでもなくつり上がったのを見てしまった。

 こ、怖い!

「も、もう一回……。いらっしゃいませぇ!」
「ませーって、伸ばすな!」
「いらっしゃいませ!」
「アイコンタクト! こっちに目線!」
「いらっしゃいませ!」
「首を曲げるな! 頭と背中は一直線! 角度は三十度!」
「いらっしゃいませ!」
「いつまで頭下げてんだ。二秒経ったら、顔上げろ!」

 ひぇぇぇーっ! 厳しい!