ましろは五時半にもう一度、《りんごの木》にやって来た。りんごおじさんと夜ご飯を食べるためだ。

「りんごおじさん、来たよ!」「ましろさん、いらっしゃい。さぁ、晩ご飯にしましょう」

 りんごおじさんは、バックヤードに料理の皿や飲み物を手際よく並べていく。ディナータイムが始まる直前だから、本当はとても忙しいはずなのに、動作はとてもていねいだ。

 これが、大人の余裕ってやつ?
 でも……。

「今夜のご飯は【一寸法師の具だくさんみそ汁定食】ですよ~」
「ねぇ! その料理の名前、何なの?」

 ましろは、気になってたまらなかったこと──、料理に付いている少し変わった名前について、りんごおじさんに質問した。

「あぁ。今日は、肉団子やお野菜をたくさん入れたおみそ汁なので。一寸法師におわんが出て来るでしょう?」
「そうじゃなくて、全部だよ! メニューにあるやつも、全部!」

《りんごの木》のメニューは、【桃太郎の~】とか【シンデレラの~】というような、物語のタイトルが入っているものばかりなのだ。

「なんでそんなにファンシーなの?」

 ましろは「いただきます」と手を合わせ、おみそ汁をひと口すすった。

 おいしい。とってもおいしい。

「えっ? もしかして、変ですか?」

 りんごおじさんは信じられないくらいショックを受けた顔をしながら、おみそ汁をすする。うなずいているから、きっと納得のおいしさなのだろう。

「普通におみそ汁とかスパゲティとかでいいのに、ごちゃごちゃしてて覚えにくいよ」

 肉団子、すっごくおいしい!

「ちなみに、覚えているのは?」

 りんごおじさんは、白ご飯をもりもりと食べる。

「初めて食べさせてくれた【白雪りんごのチキンステーキ】と、えーっと……」

 ナスの漬物をぽりぽりと食べながら、ましろはアリス君に渡されたメニューを必死に思い出そうとした。しかし、なかなか頭に浮かばない。そして一か八かで言ってみた。

「【三匹のこぶたのポークステーキ】?」
「ましろさん。そのセンスはどうかと思いますよ。ブタたちが気の毒です」

 たしかに! オオカミのご飯になってる!

 りんごおじさんがため息をつくのも分かる。ましろだって、自分で言ってから食欲が減ってしまった。

「僕が料理を考える時は、子どもたちが喜んでくれたらいいな……、家族の楽しい話題の一つになったらいいな、というのを意識してるんですよ。そんな心を持って、暗記に臨んでみたらどうですか?」