口をはさんだアリス君は、ましろの方を見てギョッとした様子だ。ましろとしては悲しいが、仕事は初めてなので当然かもしれない。

「わたし、がんばります! よろしくお願いします!」
「うーっ。まさか、後輩が小学生って……」
「あら、いいじゃない。かわいい看板娘だわ」

 恩田さんのサポートがありがたい。

 ましろは、「お・ね・が・い・します!」とアリス君を見上げるような姿勢でせまり、どうにか「分かったって」という言葉を引き出した。

 そしてなんと、「店長。この子に、少しずつ接客教えていってもいいっすか?」と、アリス君はましろの教育係まで買って出てくれたのだ。

「助かります。アリス君の教えなら、間違いないですからね」
「うわぁ! アリス君、ありがとうございます!」
「いきなりアリス君呼びかよ」
「ダメですか?」
「別にいいし。それに、敬語なくていいし」

 やっぱり、アリス君は優しい人に違いない。
 ましろがそう思ってホッとしていると、アリス君は余っているメニュー表を一つ持って来た。ランチとディナーがすべてまとまっている、少し厚めの絵本のようなメニュー表だ。

「これは宿題だ。明日の夕方までに、まずはランチメニューを覚えてこい。テストするから」
「テスト?」

 思わず、声が裏返ってしまった。
 ましろは暗記が好きではない。好きなアイドルの歌の歌詞ならば、大喜びですぐに覚えるけれど、宿題だとかテストだとか言われるとげんなりしてしまう。

「いらっしゃいませとか、ご注文はー? とか教えてくれるんじゃないの⁈」
「それは、メニューを覚えてからだ。世の中そんなに甘くないってのも、覚えとけ」

 うわっ! アリス君、優しいのかなって思ったけど、ちょっと意地悪じゃない?

 ましろはしぶしぶメニュー表を受け取ると、「がんばります」と宣言した。

 これはかなり必死にやらないと、日曜日に吉備野さんが来ても、お店に立たせてもらえないかもしれない。

「ファイト! 私はましろちゃん用のエプロンを用意しとくから!」

 恩田さんはましろの味方だ。
 恩田さんが教育係だったらよかったのに。