お店に流れている、ゆったりとしているけれど軽快な音楽。ジュウジュウトントンと、おいしそうな料理の音。お客さんの明るい笑顔……。

「おいしいわぁ、店長さん」
「そう言っていただけると、うれしいです」
「いつものオムライスね!」
「デミグラスソースのやつですね? かしこまりました」
「ごちそうさま~。また来ます」
「はい。いつでもお待ちしております」

 お客さんたちの声に、りんごおじさんや店員のお兄さんは、心から嬉しそうに応えていた。

 さっきは気がつかなかったが、このファミリーレストラン《りんごの木》は、なんだかホッと安心できて、のんびりとあったかい気持ちになるようなお店なのだ。

 今は他のお客さんが座っているが、きっとましろも、あの席であんなふうに笑っていたのだろう。

「いいなぁ。このお店、好きだなぁ」
「ありがとうございます」
「ひっ!」

 ハッと気がつくと、背をかがめたりんごおじさんが、ドアの向こう側からこちらをのぞいていたのだ。

「りんごおじさん! びっくりさせないでください!」
「ふふふっ。お店ののぞき見はよくないですよ」

 りんごおじさんは面白そうに笑いながら、素早くドアを開けてバックヤードに入って来た。そしてメガネについた汚れをエプロンのポケットから出した布で、キュッキュッと拭いている。

「どうですか? 《りんごの木》は。また来たくなりました?」
「はい! とっても! とっても……」

 ここまで言いかけて、ましろの頭にふわっと疑問がわいてきた。

 さっきわたしが「いいなぁ」って思ったのって、お客さんがうらやましかったから? なんか違うと思う。違わないけど、違う。

 少しだけ悩んで、ましろは「あっ!」とひらめいた。

「わたし、《りんごの木》で働きたいです!」
「えぇっ!」

 りんごおじさんは、ましろの予想外の言葉にとても驚いた声をあげた。

「ま、ましろさんが働く……?」
「そう! わたし、恩返しがしたいんです! おじさんと、このお店に!」
「恩返しって、そんな、鶴じゃないんですから……」

 りんごおじさんは戸惑っていたが、ましろはぐいぐい近づき、物理的にも迫りまくった。久しぶりに見つけた、とびきりやりたいことなのだ。

 押せ押せだ!