「そろそろ行くよ。ましろ、凛悟君と仲良くな。凛悟君、ましろをよろしくお願いします」
「七人さん。ましろさんと、待っています。いつでも来てください」
「お父さん。いってらっしゃい!」

 お父さんは、改札の向こうで手を振っていた。

「いってきます!」

 お父さんの大きな声が駅に響いて、周りの人たちの視線が集まったけれど、かまわない。ましろは、ぶんぶんと手を大きく振ってお父さんを見送った。

「少しずつ、親娘になろう。お父さん」






***
 さて、気になっていたことがまだ残っている。りんごおじさんと小折シェフの関係についてだ。

 ましろがその真相を知ったのは、御伽祭の当日だった。


 少し蒸し暑い夕方に、ファミリーレストラン《りんごの木》の前に、かき氷の屋台が完成した。看板の色をぬったり、メニュー表を書いたりしたのはましろと恩田さん、かき氷を考えたのはりんごおじさんとアリス君だ。

「いらっしゃいませ! 《りんごの木》の【雪の女王のかき氷】はいかがですかーっ?」
「可愛い店員さん。キウイ味をひとつもらえるかな?」

 元気に呼びこみをしていたましろに、ナンパするかのように注文をしてきたのは小折シェフだった。小折シェフはお祭りを満喫しているようで、涼しげなジンベイ姿だった。

「こっ、こんにちは!」
「元気そうでよかったよ。あの日から、私も君のことを心配していたんだ」

 あの日とは、ましろがお父さんに会った日。つまり、小折シェフがりんごおじさんに告白をするはずだった日だ。

「小折シェフ、ごめんなさい。あの日、わたしのせいで台無しになっちゃいましたよね。えっと……、告白が」

 ましろは気を遣って、ひそひそと小折シェフに耳打ちした。けれど、小折シェフは「はははっ!」と大きな声で吹き出したので、ましろは思わず驚いてしまった。

「な、なんで笑って……」
「あはは……。すまない、お嬢さん。そんな勘違いをさせていたなんて。……凛悟君。姪っ子さんのなかで、私は君に首ったけらしいよ」
「それは、ちょっと嫌ですね」

 りんごおじさんまで、クスクスと笑いをこらえている。

 なに、この状況?!