安心して、嬉しくて、美味しくて、泣けてきた。

「ましろさん、泣かないで」
「えへへ。アリス君にデコピンされたのが痛くて、泣けてきちゃったよ」

 ましろが、おおげさにおでこをさすってみせると、りんごおじさんは「赤くなってますね」と、クスクスと笑っていた。




 ***
 数日後、ましろとりんごおじさんは、おとぎ町駅に来ていた。

「お父さん。お見送りに来たよ!」

 駅の改札口の前にお父さんの姿を見つけたましろは、慌てて駆け寄っていった。

「ましろ、凛悟君。ありがとう」

 お父さんは手を上げて立ち止まると、寂しそうにましろの顔を見つめ、少し黙ってからまた口を開く。

「本当にいいんだな? ましろ」
「うん。わたしは、ここにいるよ。せっかく誘ってくれたのに、ごめんね」
「いや、かまわないさ。お父さんも、焦りすぎたかもしれないな」



 昨日――。
 りんごおじさんは、《りんごの木》でお父さんと話し合う時間を作ってくれた。ましろは、自分の今の家族はりんごおじさんであること、血のつながりはあるけれど、それだけでお父さんと一緒には行けないことを一生懸命に伝えた。

 その時、お父さんはりんごおじさんに、「叔父の君に、ましろを育てることができるのか」と厳しいことを言った。

 けれど、りんごおじさんは「とことん、向き合うつもりです。ましろさんが幸せに巣立つその日まで」と力強く言い切ったのだ。



『幸せに巣立つその日まで』──。

 それがいつなのかは分からないが、ましろは心の底からうれしかった。

 重たかった心も、ズキズキと痛かった胸も、鉛玉のようだった足も、今は羽が生えたみたいに軽い。どこにだって行けそうな気分だ。

「お父さん。また会いに来てね。わたし、《りんごの木》のウエイトレスさんだから、おもてなししてあげる」
「あぁ。また来させてもらうよ。楽しみだ」
「あのね、これ、りんごおじさんと作ったから、新幹線の中で食べて」

 ましろは、お父さんに小さめの紙袋を渡した。中身は、【おむすびころりんおむすび】だ。

「シャケと、梅干しと、コンブだよ! 梅干しは自家製なんだよ」
「どれも美味しそうだ。ありがとう」

 お父さんはチラッと紙袋の中をのぞきこむと、嬉しそうに手に下げた。そして、残念そうに腕時計に目を落とす。