黒い鉄板にのっているのは、雪のように白いソースをまとったハンバーグ。付け合わせは、色鮮やかなニンジンのグラッセだ。どれも熱々。ジュウジュウという音を聴いているだけで、お腹が空いてくる。

「こんなメニュー、なかったよね?」
「我が家のお姫様のための、特別メニューなんです」
「ふふっ。誰のことだろ?」

 ましろはナイフでハンバーグを小さく切って、ふぅふぅ冷ましてから、ひと口ぱくりと口に入れた。するとジュワッとたっぷりの肉汁と、濃厚なチーズクリームソースが混ざり合って、口の中が幸せになる。その幸せは体全体に広がっていく。

「おいしい!」

 そんな言葉だけでは足りないのは分かっているけれど、それ以上にふさわしい言葉が見つからない。料理をほめる言葉も、りんごおじさんへの感謝の言葉も、ただひたすら「おいしい」という言葉に溶かしていく。

「ありがとうございます、ましろさん。僕の、『家族』になってくれて」

 ふと、りんごおじさんが口を開いた。
 りんごおじさんは、大切そうに、愛おしそうにましろを見つめていた。

「僕は、家族を幸せにする料理を作りたかった。だから、《りんごの木》を始めました。その《りんごの木》で、ましろさんが笑顔で食事をしてくれることは、僕にとって何よりも幸せなことです」
「りんごおじさん……」
「でも、もし本当にましろさんがお父さんの元へ行きたいのなら、止めません。七人さんは、間違いなくあなたのお父さんですから」

 りんごおじさんの寂しそうな顔は、数時間前までのましろと同じだった。相手の幸せを願う――、だから苦しくて悲しい顔だ。

 けれど、ましろはもう分かっていた。自分の気持ちと、答えを──。

「わたしとりんごおじさんは、誰よりも『家族』だよ。だから、いっしょにいたい」

 父親でも娘でもない。おじさんと姪っ子。だけど、いちばんの『家族』。

「りんごおじさん。わたし、これからもここにいていい? いつか、りんごおじさんに奥さんや子どもができても……、その時も、『家族』でいてくれる?」
「もちろんですよ」

 りんごおじさんはイスから立ち上がると、ましろを背中からぎゅっと抱きしめてくれた。とてもあたたかくて、幸せな気持ちになった。

「ありがとう。りんごおじさん」

 大好きだよ。

 ホロリと、勝手に涙が出て来た。