アリス君は目つきの悪い目を細くして、いたずらっぽく笑っていた。ましろは一生懸命真面目に話していたのに、ひどいではないか。けれど、アリス君は「お仕置きだ」と、然るべき措置だと言わんばかりの顔をしている。

「何のお仕置? ひどいよ、アリス君!」

 ましろは、じんじんと痛むおでこをさすりながら猛抗議した。痛くて涙が出て来た。

「素直になれないうそつきの子には、お仕置きが必要だ。……ホントは行きたくないんだろ、東京。白雪店長と、一緒にいたいんだろ?」

 アリス君は、真っ直ぐましろを見つめていた。
少しだけ、言っていいのかどうか迷う。一度口にしてしまったら、これから先、たくさんの人を不幸にしてしまうのではないかと思ってしまったから。

だけど、わたしは……。

アリス君と、何より自分の心に嘘はつけないと、ましろはズキズキと痛む胸を押さえながら口を開く。

「……わたし、おとぎ町が、おとぎ商店街が好き。《りんごの木》が好き。……りんごおじさんが好き。離れたくないよ!」

 ましろの心からの叫びを、アリス君はどーんっと受け止めて、「うんうん」とうなずいていた。そして、あぐらをかいていた膝をパンっと叩くと、ましろの腕をつかんで立たせた。

「行こうぜ、《りんごの木》に。店長、今日は臨時休業にするけど、店にはいるってさ」
「えっ! お店に行くの? ヤダよ!」
「オレに親とちゃんと話せ、って言ってくれたのは、ましろだったよな。なら、お前も店長と話して来いよ。きっと大丈夫だぜ!」

 あぁ。そうだった。わたしあの時、「きっと大丈夫だよ」って、そう言ったんだ。

「お願い、アリス君! 《りんごの木》まで急いで送って!」
「おう! 任せろ! オレのチャリのスピード、なめんな!」

 恩田さんの半分のスピードだけどね。

 ましろは心の中でクスッと笑った。




***
 カランカランー……。
 オレンジ色の夕焼けと、藍色の夜空が入り混じるころ、ファミリーレストラン《りんごの木》のドアベルが鳴り響いた。

「おかえりなさい」

 店長のりんごおじさんの言葉は、「いらっしゃいませ」ではなかった。

「ただいま。りんごおじさん」

 ましろが気まずそうに答えると、りんごおじさんはにっこりとほほ笑んで、壁際の二人席のイスを静かに引いた。

「一緒に、ご飯を食べましょう」
「うん……」

 りんごおじさんはいったんキッチンに入り、しばらくすると料理の皿をトレーに乗せて戻って来た。

「お待たせしました。【白雪姫のホワイトバーグ】です」