「昨日オレが、お前が小折シェフと店長の邪魔になるんじゃ……って言ったせいだろ? ごめん! 余計なこと言っちまった!」

 アリス君は、体を起こして頭を下げた。もしかしたら、さっきから謝るタイミングを伺っていたのかもしれない。

「アリス君のせいじゃないよ! わたしも、そう思ったから……。お父さんにも同じこと言われたし、誰から見てもそうなんだと思う」
「お父さんって、離婚したっていう? その人に合ってたのか?」
「うん、そう。ごめんね。アリス君と、りんごおじさんを尾行する約束だったのに」
「連絡くれないと心配だから、そこは怒ってるからな! 反省しろよ。まぁ、ひとりでオヤジさんに会うのも心配だけどさ」

 ましろは「ごめんなさい」と、もう一度謝った。するとアリス君は、「で? オヤジさんとどんな話したんだよ」と、話題を変えた。

「東京でいっしょに暮らそうって言われた」
「久しぶりに会って、いきなりか?」
「うん。でも、弁護士さんのお仕事は、うまくいってるみたいだった」

 お父さんの名刺を見せると、アリス君はすぐに事務所の名前をスマートフォンで検索して、「ま、ウソじゃなさそうだ」と、うなずいた。それどころか、どうやらとても大きな事務所らしい。

「ましろは、行きたいのかよ。東京」
「わたしがいつまでもいると、りんごおじさんの迷惑になっちゃうでしょ? だから、お父さんのところに行こうかなって」

 できるだけ明るく、なんてことないふうに、ましろは言った。

「あっ、ほら! りんごおじさんが小折シェフと東京にお店を出したら、すぐに会いに行けちゃうね! それに、アイドルのコンサートも行きやすくなるなぁ!」

 さも、それが当たり前のことのように。

「アリス君も遊びに来てよ! 東京にしかないお菓子屋さんも、きっとたくさんあるよ。恩田さんも、家族で来てくれたらうれしいなぁ」

 多分、そうすることが一番丸く収まるから。

「ね。アリス君。絶対……、絶対に来てね」
「……行くもんか。バーカ」

 突然、アリス君の鋭いデコピンがましろのおでこに飛んで来た。

「いたぁっっ! 痛いよ!」