りんごおじさんは「いただきます」と言うと、自分の前に置いたチキンステーキのひと切れをパクリと口に入れた。

「うん、おいしいです。『家族』と食べるご飯は最高です!」

 少しわざとらしいくらいの言い方だったけれど、今はそれでちょうどいいのかなと、ましろは思った。

 今は、言葉だけですごくうれしい。わたしとりんごおじさんの『家族』のカタチは、まだ分からないけれど。

「りんごおじさん。ありがとうございます」
「お礼なんて、いりませんよ。僕の方こそ、ましろさんが来てくれて嬉しいんですから」

 ましろとりんごおじさんがこんなやり取りをしていると、ふと、隣のテーブルからパチパチと手を叩く音がした。

 ましろが「えっ⁈」と、音の鳴る方向を見ると、コーヒーを飲む夫婦が目をうるませていた。

「ごめんね、店長さん! 聞こえちゃって……」
「あぁ、ダメ。深い事情は分からないけど、ステキな話じゃない。『家族』!」

 うわーっ! 聞かれてたし、見られてた!

 りんごおじさんは「いやぁ~」とのんびりと笑っているが、ましろは急に恥ずかしくなってしまった。

「と、とにかくいただきます!」

 ましろは少しでも早くどこかに隠れたい気持ちで、せっせとフォークを動かしたのだった。



***
 ましろはチキンステーキを食べ終わった後は、店員さんの休憩室──、バックヤードにいさせてもらった。りんごおじさんは、「お店のテーブルにいたらいいですよ」と言ってくれたけれど、お客さんが来たのに座れなかったら申し訳ないからだ。

 しかし、バックヤードは意外と快適だっった。荷物を入れるロッカーと、二人用のテーブル一つとイスが二脚。冷蔵庫とテレビまであって、ましろの新しい部屋よりも楽しい場所かもしれない。

 そしてましろは、しばらくバックヤードを楽しんでいたのだが、やはり、お店の様子が気になってたまらない。ついさっきまで自分もそこにいたものの、目立ちたくないあまりにキョロキョロすることができなかったのだ。

「ちょっとだけのぞいてもいいよね」

 ましろは、バックヤードとお店をつなぐドアを、そぅっと少しだけ開いて中をのぞいた。

「あっ」