「りんごおじさんは優しいんだ! いっしょにご飯を食べようって、言ったくれた! 忙しくても、学校行事にも絶対に来てくれる! 話は真剣に聞いてくれるし、怒る時もあるけど、突き放したりしない!」
「でも、ましろ。凛悟君は叔父さんだ。いつまでも姪のお前といてくれるのか? 彼はまだ若い。そのうち、奥さんや子どもだってできるかもしれない。その時、ましろはどうするんだ?」

 お父さんの言葉が胸に重く突き刺さり、言い返すことができないましろは、黙って唇を噛みしめた。それは、今まで考えないようにしていたことだった。

 小折シェフと笑い合うりんごおじさんの姿が浮かび、頭がガンガンと痛くなる。

「凛悟君の自由を奪うのは、ましろだって嫌だろう?」

 わたしが、りんごおじさんの自由を奪う?

「イヤだ……。イヤだよ……」

 わたしのせいで、優しいりんごおじさんが不自由になるのは耐えられない。

 あれ……。どうして?

 気がつくと、涙で視界がゆがんでいる。お父さんの顔がぐにゃぐにゃに曲がっていて、どんな表情をしているのかが分からない。

「それなら、お父さんのところに来るといい。つらい想いをしなくて済むはずだ」
「…………」

 お父さんは、黙ってうつむくましろの頭をぎこちなくなでると、会計伝票を持って立ち上がった。

「お父さんは、しばらくこのホテルにいる。決心したら連絡をくれ」

 そう言うと、お父さんはカフェを出て行った。

 そして、ひとり残されたましろは何も考えられないままに、のろのろとホットケーキに手を伸ばした。すっかり冷めてしまって、しょんぼりとしたホットケーキだ。そのうえ、量が多くて一人では食べ切れそうにない。

 いっしょに食べてくれたらよかったのに。

 ましろは、甘過ぎるリンゴジュースでホットケーキを胃に流しこみながら、ナフキンで涙をぐいぐいと拭った。





***
 ようやくホットケーキを食べ終えたましろは、ふらふらとホテルから外に出た。
 この辺りはまだ梅雨明けしていなくて、空がどんよりと湿っぽい。まるで、ましろの心の中のようだ。

「ましろさん!」

 ふいに、目の前にりんごおじさんが現れて、ましろは驚いた。

 りんごおじさんは走って来たようで、肩で大きく息をしていた。