そう言われると、ましろも不安になってきた。

 もし、りんごおじさんが小折シェフの告白をオッケーしてしまったら、りんごおじさんは遠くに行ってしまう。《りんごの木》が閉店するどころか、ましろはおとぎ町にいられなくなる。

「わたしは、りんごおじさんについて行けないのかな……」
「そりゃあ、白雪店長と小折シェフの邪魔になるから……。どうだろうな」

 アリス君に微妙な顔で言われてしまい、ましろはしゅん……としてしまった。けれど、アリス君に「叔父さん大好きッ子」と思われるのも恥ずかしいので、言葉だけは強くする。

「わっ、わたしだって、りんごおじさんが誰かとイチャついてるとこなんて、見たくないもん! その時は、大人しく身を引くんだから!」

「大人しく身を引く」なんて、ドラマで見たばかりのセリフを使ってみたけれど、ましろの胸の中は、ひどくモヤモヤしていた。

 とにかく、明日になったら分かるんだから!

 そう自分に言い聞かせて、ましろはアリス君と待ち合わせの約束をしたのだった。




***
 小折花衣里。東京生まれの30歳。21歳の時にフランスに渡り、24歳でフランスのグランメゾンのシェフとなる。去年はフランス料理コンテストで優勝し、満を侍して日本で《テーブル・ディ・エスポワ》をオープンした、超人気オーナーシェフ。

「調べれば調べるほど、すごかったなぁ」

 昨日、ましろはりんごおじさんのいないスキを狙って、家のパソコンで小折シェフのことを調べた。 
 そして小折シェフがどれほど優秀で人気者なのかが分かり、心の底から驚いていたのだ。

 東京のお店の予約が数年間埋まってるなんて、びっくりすぎるよ!

 のんびり営業している《りんごの木》とは大きな違いだ。

 そして小折シェフとりんごおじさんは、フランスのグランメゾンでいっしょに働いていたのではないだろうか。
 きっとその時に、小折シェフがりんごおじさんに恋をしたけれど、りんごおじさんは日本へ帰ることを決めていた。すぐに後を追うことができない小折シェフは、約束の場所での告白を誓い、りんごおじさんの飛行機を見送った──。

 こんなかんじ?

 我ながら、なかなかドラマチックな妄想だ。