八月のおとぎ町は、ある大きなイベントに向けての準備で忙しい。
「御伽祭といって、土地神様に今年一年のお願い事をひとつ、お願いするお祭りがあります」
「ってのは形式的な話で、一般人は出店を楽しむ祭りだよ。大通りも歩行者天国になったりしてさ」
《りんごの木》の定期ミーティングで、りんごおじさんとアリス君が言った。
「うちは今までは参加したことがなかったのですが、今年はアリス君とましろさんがいるので出店を出してみてもいいかなと」
「私は子どもと買いに行くから頑張って!」
恩田さんは、りんごおじさんに「意見だけは出しますから」とグーサインをしてみせる。恩田さんがお祭りの日にいないのは寂しいけれど、お子さんに会えるのも楽しみかもしれない。
そして、議題は何の店をやるかだ。
「はい! かき氷がいいです!」
ましろは、真っ直ぐにピンと手を挙げた。
「お祭りといえば、絶対にかき氷!」
「かき氷って、氷にシロップかけるだけでしょ? 私、損した気分になるから、あんまり買わないんだけど」
「違うよ、恩田さん! 最近のかき氷はすごいんだよ!」
「それは言えてるっす」
ましろが熱量高めに言うと、アリス君がすかさずスマートフォンで画像の検索をしてくれた。
出て来た画像は、果物やアイスクリーム、クリームや白玉など、さまざまなトッピングをまとっていて、器も含めて、まるで芸術作品のように美しいかき氷だった。
「見た目のインパクト重視のかき氷も多くて、SNSにアップする人も増えてます。パフェみたいに豪華できれいっすよね」
「あら、ほんと。きれいでおいしそうね~! いいじゃない」
「僕もいいと思いますよ。かき氷。今年のデザートメニューのために、かき氷機も買いましたし」
いつの間に買ってたの?
りんごおじさんの言葉に驚くましろだったが、これでみんなの意見がそろったわけだ。
「じゃあ、御伽祭はかき氷のお店に決定だーっ!」
ましろが拳を天井に向かって突き上げると、りんごおじさん、アリス君、そして恩田さんも「オーッ!」と笑いながら拳を上げた。
***
数日後の土曜日──。
ファミリーレストラン《りんごの木》は、かき氷屋さん準備をしつつ、今日も全力営業中だ。
「ましろさん、【千夜一夜のカレーライス】、【浦島太郎の漁師飯】、【マッチ売りの少女の七面鳥ランチ】を奥のテーブルにお願いします」
「はーい!」
ましろは元気に、あっちこっちのテーブルに料理を運んでいた。
日曜日なので子連れのお客さんが多く、店内はとてもにぎやかだ。そんな中、三十代前半くらいの女の人が、お店の入り口でましろに話しかけて来た。
「ねぇ、君」
「御伽祭といって、土地神様に今年一年のお願い事をひとつ、お願いするお祭りがあります」
「ってのは形式的な話で、一般人は出店を楽しむ祭りだよ。大通りも歩行者天国になったりしてさ」
《りんごの木》の定期ミーティングで、りんごおじさんとアリス君が言った。
「うちは今までは参加したことがなかったのですが、今年はアリス君とましろさんがいるので出店を出してみてもいいかなと」
「私は子どもと買いに行くから頑張って!」
恩田さんは、りんごおじさんに「意見だけは出しますから」とグーサインをしてみせる。恩田さんがお祭りの日にいないのは寂しいけれど、お子さんに会えるのも楽しみかもしれない。
そして、議題は何の店をやるかだ。
「はい! かき氷がいいです!」
ましろは、真っ直ぐにピンと手を挙げた。
「お祭りといえば、絶対にかき氷!」
「かき氷って、氷にシロップかけるだけでしょ? 私、損した気分になるから、あんまり買わないんだけど」
「違うよ、恩田さん! 最近のかき氷はすごいんだよ!」
「それは言えてるっす」
ましろが熱量高めに言うと、アリス君がすかさずスマートフォンで画像の検索をしてくれた。
出て来た画像は、果物やアイスクリーム、クリームや白玉など、さまざまなトッピングをまとっていて、器も含めて、まるで芸術作品のように美しいかき氷だった。
「見た目のインパクト重視のかき氷も多くて、SNSにアップする人も増えてます。パフェみたいに豪華できれいっすよね」
「あら、ほんと。きれいでおいしそうね~! いいじゃない」
「僕もいいと思いますよ。かき氷。今年のデザートメニューのために、かき氷機も買いましたし」
いつの間に買ってたの?
りんごおじさんの言葉に驚くましろだったが、これでみんなの意見がそろったわけだ。
「じゃあ、御伽祭はかき氷のお店に決定だーっ!」
ましろが拳を天井に向かって突き上げると、りんごおじさん、アリス君、そして恩田さんも「オーッ!」と笑いながら拳を上げた。
***
数日後の土曜日──。
ファミリーレストラン《りんごの木》は、かき氷屋さん準備をしつつ、今日も全力営業中だ。
「ましろさん、【千夜一夜のカレーライス】、【浦島太郎の漁師飯】、【マッチ売りの少女の七面鳥ランチ】を奥のテーブルにお願いします」
「はーい!」
ましろは元気に、あっちこっちのテーブルに料理を運んでいた。
日曜日なので子連れのお客さんが多く、店内はとてもにぎやかだ。そんな中、三十代前半くらいの女の人が、お店の入り口でましろに話しかけて来た。
「ねぇ、君」