「誰が意地悪だ」

 そして三人でクスクスと笑いながら作業をしているうちに、立派なお菓子の家が完成した。

 屋根はウエハース、壁はビスケット、装飾にはカラフルなチョコレートに、ふわふわのマシュマロ。要所要所のホイップクリームは、お店のものを買い取ってたっぷりとしぼった。

 これは、夢にまで見たお菓子の家! 

「有栖川、マジ天才」
「うわ~い! おいしそう!」
「もったいないけど、食べるぞ!」

 壊すために作られるなんて、悲しい。けれど、その瞬間まで愛おしいのがお菓子の家だ。

「よいしょーっ!」
「えーいっ! いただきまーすっ!」

 堂道は、なかなか豪快に屋根をはがし、ましろはえんとつをもぎ取っている。

 容赦ねぇなぁ。

「よし、オレも!」

 白兎も二人を見習って、お菓子の家の壁をパキンっと折り取って口に入れた。

 うまい! 止まんねぇ! ヘンゼルとグレーテルが食べまくる気持ちが分かる。

「どうしよう。晩ご飯が入らなくなっちゃうよ」
「店長のメシはうまいから、どうせ食えるだろ。あーあ。ましろ、でぶルートまっしぐらだ」
「やだやだ! 困るよーっ!」

 ましろをいじるのは、とても楽しい。反応が面白くて、かわいい。

 ほんとに、妹ってこんなかんじなのかな。

「わたしにはお兄ちゃんはいないけど、アリス君って、お兄ちゃんみたいだね」

 ふとましろが言ったひと言に、白兎の胸はぴょこんと跳ねた。オレも店長みたいに、ましろの家族になっていいのかな、なんて思ってしまう。

「おっ! いいじゃん。有栖川がヘンゼルで、ましろちゃんがグレーテルだ」

 白兎は、堂道の声でハッと我に返った。我ながら、照れくさいことを考えてしまった。

「オレなら、グレーテルを守りながら、魔女を倒すけどな!」