けれど、そうは言ってもスイーツ好きの堂道にとってもお菓子の家は魅力的なはずだ。以前、堂道は子どものころから、ヘンゼルとグレーテルの絵本を読んでは、お菓子の家のさし絵を何度も何度も眺めていたと話していたのだ。

「ボク好みのでっかい家にしてくれよな。3LDK以上じゃないとダメだ」
「有栖川建築に任せろ」

 白兎はせっせとビスケットと板チョコを組み合わせて、家の壁や屋根の土台を作っていく。チョコレートを溶かしたり、チョコペンを使うと、よくくっついてやりやすい。

 すげぇ楽しい! ハマる!

 こだわり出すと止まらない。うとうとしながら待っている堂道そっちのけで、白兎は作業に集中していた。

 そのため、いつの間にか真横に立っていた女の子に気がつかなかった。

「アリス君、すごいね! お菓子の家?」
「おわっ! ましろ!」

 白兎は、驚いてひっくり返りそうになった。

 そこにいたのは、《りんごの木》の白雪店長の姪っ子で、自分の後輩──、白雪ましろだった。学校帰りらしく、ランドセルを背負っている。

「なんでいるんだよ!」
「昨日、バックヤードにノートを忘れてて、取りに来たんだ。そしたら、キッチンからアリス君の声がしたから」

 ましろはにこにこ笑いながら、お菓子の家に興味津々だ。キラキラした目でソレを見つめている。

「絵本から飛び出して来たみたい……」
「……いっしょに作るか?」

 白兎は胸がむずむずしてきたので、そう提案した。なんとなく、ましろを喜ばせたくなったのだ。

「いいの? やったー!」

 ましろはとてもはしゃぎながら、ランドセルをテーブルに置いて戻って来た。その途中に、うとうとと居眠りをしていた堂道に挨拶をしているのが面白い。

「アリス君のお友達さん、初めまして。白雪ましろです」
「ど、どうも。堂道翼です」

 目覚めたばかりの堂道は、いつの間にか現れたましろに目を丸くしていた。オバケでも見るかのような目だ。

「えっと、ウワサのましろちゃん?」
「ウワサ? アリス君、変なこと言ってないよね?」
「お前がドジでミスばっかりって話はしてる」
「わーっ! ひどいよー!」

 そんなましろと白兎のやり取りを見て、堂道は可笑しそうに笑っている。

「はははっ! 仲良いなぁ」
「意地悪されてばっかりだよ!」