【完結】僕の恋を終わらせるか、君の夢を終わらせるか

水曜日の休み時間。

昼休みよりの長さもない休憩だが、学生にとってはありがたい時間だ。

俺は悟の机で立花さんと喋っていた。

もちろん昨日の報告会。

保健の先生のおかげで知れた名前と情報を話していた。



「鈴木藍子先輩ね…。保健室登校ならよりわからないわ」

「何があったんだろうな?いじめとか?」

「おい野球バカ。そういうのは模索するな」

「バカになるほど野球は好きじゃねぇよ。でも良かったなヒロ。名前がわかって」

「ああ。後は保健の先生が聞いて許可が取れれば話せると思う」

「許可必要なくらいやばい人なのか?大丈夫?」

「だから!人には色々あるんだって!そんなのもわからないのはクソガキよ」

「まぁまぁ。確かにあまり深くは先輩のこと聞かない方がいいかもね。保健室登校なら色々あるからさ」

「そう!ったく、悟も九音くんみたいに紳士的でありなさいよ」

「俺はヒロじゃねぇから」

「拗ねるなよ悟。そういえば今日は部活ないんだろ?」

「おう!朝、昼、放課後と部活無し!週に1回の休みは幸福だ…」

「そこまで言うのになんで野球部入ってるのよ」

「俺にも色々あるんだ。模索するのはやめろ立花?」

「ウザ」



睨み合う悟と立花さんの中に入り和らげる俺。

悟もたまに凄い発言をする時があるから立花さんとは相性が少し悪いのかも知れない。

でも話す時は楽しそうだから意外と仲良しになれるはずだ。

悟が次の凄い発言を放とうとした時にちょうど予鈴が鳴る。

助かったと心の中で思い俺達は悟の机から解散した。

机についた俺は授業の準備中も、先生が教室入ってきた瞬間も、鈴木藍子先輩のことを考えていた。

許可取れたら何を話そうか?

一方的にならないように気をつけなければ。

ama意外の話題も考えた方がいいな。

先生が居眠りし始めた生徒を怒鳴るまで俺の頭の中は鈴木藍子先輩への作戦でいっぱいだった。



ーーーーーー



昼休み。

昼食と娯楽の時間。

6月も終わりに差し掛かっていて雨もそこまで降らなくなった。

蒸し暑くなる教室では生徒達が「暑い〜」と駄々をこねる。

俺も心の中でそう思う1人だった。



「九音くんいるかな?」



今日は悟の席で昼ご飯を食べようと思ってお弁当が入った袋を片手に持ち移動し始めると、教室の横開きのドアから保健の先生が顔を覗かせていた。

俺は悟の席ではなく、ドアへと方向転換する。



「はい。います」

「藍子ちゃんの事なんだけどね。今大丈夫?」

「大丈夫です。どうでしたか?」

「OKだって」



先生は昨日のように指で丸を作って俺に見せる。

俺は嬉しくなって小声で「よっしゃ」と言ってしまった。

その様子を遠くから見ていた悟が来て、「なに?なに?」と聞いてくる。



「明見くん。最近怪我してない?」

「大丈夫っス!元気です!それよりも、もしかして?」

「鈴木藍子先輩と話せるって」

「うぉ!マジか良かったじゃん!」

「どうする九音くん?今藍子ちゃん保健室いるけど…」

「行きます!悟、今日は1人で食べて」

「えー俺も行きたい。美人先輩見たい」

「ごめんね明見くん。定員オーバー。藍子ちゃん人が沢山だとダメだから」

「はーい。じゃあな!後で話聞かせろよ!」

「了解」



今回は拗ねた様子もなく悟は席に戻って行く。

俺は保健の先生と2人でお弁当袋を片手に持ちながら鈴木藍子先輩がいる保健室へと向かった。



「わざわざ来てもらってすみません」

「いいのよ〜。私も運動がてら階段登れたからね」

「鈴木先輩ってどの時間帯に居るんですか?」

「それは話題の1部にして聞いてみたら〜?」



ニヤニヤしながら先生は俺を見る。

話題に困っていたのを見抜かれているらしい。



「青春っていいわね…」

「別に、ただ好きなアーティストが同じでそれを話すだけですよ」

「それもまた青春よ。高校生活の1分1秒が青春に染まっているのだから」

「深いですね」

「大人になればわかるわ。気づいてない青春が」



しみじみとしながら俺は話を聞く。

そこまで歳はいってないはずの先生だが、青春について熱く語っていた。

そして先生の思い出話が出てくる気配がした時には保健室に着いていて、青春を語る会は終了した。



「今はベッドで寝ている子はいないから、昼休みは好きに使っていいよ。私は職員室にいるね。ごゆっくり〜」



何故か楽しむようにして職員室に向かった保健の先生の後ろ姿を見つめて俺は扉に手をかけた。

開ければ黒くサラサラの髪。

綺麗な姿勢の後ろ姿が俺の目に映った。