時計を見ると正午を回った頃。
朝ご飯も口にしていなかった俺は空腹だ。
でもきっと冷蔵庫には何も食材はない。
光流もいる事だし毎度のことのように出前を頼もうとする。
「フライドチキン。異論は?」
「なし!」
光流とも昼食の意見が一致し、有名店の出前を取るために俺はスマホをいじる。
「最近はスマホの調子大丈夫?」
「ああ、フリーズもないし全く熱くならない」
「それなら良かった」
俺は高校3年生の12月あたりにスマホを変えた。
結構古い機種を使っており、画面は固まるしすぐに本体は熱を持つしで大変だった。
変えた当初は俺の手の中にある最新機種に喜んだ。
しかしすぐに絶望がやってくる。
ちゃんとスマホデータが移行できておらず連絡先が全て消えてしまったのだ。
お陰で悟の連絡先も藍子先輩の連絡先もパーになってしまい、現在ある連絡先は家族と光流だけ。
その出来事で藍子先輩の様子もわからずにいた。
共通する友人もいなかったため、繋がりは途絶える。
悟のことも勿論気になるが、1番は藍子先輩が今何をしているかが気になった。
「ヒーくん頼んだ?」
「ああ、まだ」
「お腹すいた!」
「はいはい」
俺は多めのフライドチキンを頼むとスマホを消す。
すると消すと同時に電話がかかってきた。
「親父からだ」
「どうぞ〜」
俺は椅子にふんぞり返りながら親父からの電話を取る。
一人暮らしを始めてから何かと連絡をしてくるので正直鬱陶しかった。
何気に母さんよりも電話を寄越す。
「もしもし」
「私だ。元気か?」
「元気」
「そうか。最近仕事の方はどうだ?」
「まぁまぁ普通に。依頼も来ているし」
「そうか。でもたまには息抜きをしろよ。作曲家にとって大事なのは想像力だ。それが無くなったら作曲家のヒロは死んだと思え」
「はいはい。そういう親父はどうなんだよ」
「ああ、我が家は最高だなと感じている。しばらくはここに身を置いているからいつでも来い。仕事は最近、とあるアイドルグループに納品したばかりだ」
「ふーん。でも実家は本当にヤバい時しか行かないと思う」
「なら私がお前の家に行ってやろうか?」
「鍵かける」
「……そうか。それじゃあな。声が聞けて良かった」
「はい。じゃあね」
俺はスマホの画面を切る。
声が聞けて良かったなんてほとんど週に1回はかけてくるだろとツッコミそうになった。
親父は俺が高校3年生になる前に家に帰ってきた。
なんでも外国で音楽の修行をしていたらしい。
母さんもそのことは知らなくて帰ってきて早々親父に怒っていた。
俺は最初の頃、親父を避けていた。
しかし高校を卒業した藍子先輩が夢に向かって努力していることを本人からのメッセージで聞いて俺も前に進みたいと気持ちが変わる。
そのきっかけがあって俺は親父に作曲を習った。
それが今に繋がって仕事という形だ。
俺が変われたのはたぶん先輩が行動で表してくれたおかげだろう。
そう考えていると会いたい気持ちが膨れ上がる。
でも現実的に考えて無理なので首を少し振ってかき消した。
「ヒーくんさ、忙しいわりには曲のレベル上がっているよね」
「なんだよ急に」
「ちょっと思ってさ。聴いてくれる人も増えているし、何よりヒーくんを昔から知っている僕が感じるんだもん」
光流は自分のスマホをいじりながらそう言った。
「ああ、これだよ」そう言って見せられたスマホの画面には俺の動画サイトのチャンネルが映されている。
音声ソフトを使った曲や、歌い手さんに歌唱してもらった歌がゾロリと並んでいた。
「登録してくれてる人、あと少しで50万人だよ。本当凄いよね」
「俺1人の力じゃないけどな。光流も動画何かアップしてみるか?ピアノとか」
「今の僕の腕は鈍ってるからな〜」
机を鍵盤に見立てて左右の指を動かす光流。
高校1年生の時に挫折を経験して、吹奏楽を辞めた光流は独学で自由にやりたいと言い1人で練習していた。
でも本人曰く吹奏楽の時が今までで最高に弾けていたらしい。
俺はそんな事ないのになと思いながら光流が動かす指を見ていた。
もう少しで50万人。
それくらいの人が俺を認識している。
仕事の依頼も絶えることなく連絡が来るし、有り難いことに納品すれば楽曲に対して凄く喜んでくれた。
俺はなんとも言えない感情になって光流に話を聞いてもらう。
「俺ってさ」
「ん?」
「色んな人に動かされてる」
「どういう事?」
「光流にピアノの良さを教えられて、父親に作曲の方法を学んで、ヒナタに音楽の知識を身に付けられた。それに1番動かしてくれた人もいるんだ」
「なんか照れるなぁ。で?1番は?って聞いて欲しいんでしょ」
「まぁな。1番は俺の恋を終わらせて、夢を進ませた人」
「理解不能」
「初恋の人」
俺がそう言うと光流はスマホから目を離す。
初めて俺が恋の話をしたからびっくりしたのだろう。
「ヒーくんに初恋があったんだ…!」
「あるよそれくらい」
「まだかと思っていたよ。え?その人には失恋したの?」
「直球だな…。失恋っていうか恋を終わらせた」
「それって失恋なんじゃ…」
「失恋じゃない」
俺は腕を組んでそう言うと納得しない光流は苦笑いする。
「たまにヒーくんって頑固だよね」
頑固。
その言葉に懐かしく感じた。
『本当に頑固』
俺は小さく思い出し笑いをする。
急に笑った俺を見て不思議そうに首を傾げている光流に俺は言った。
「そうだな。譲れないんだ。俺は頑固だから」
朝ご飯も口にしていなかった俺は空腹だ。
でもきっと冷蔵庫には何も食材はない。
光流もいる事だし毎度のことのように出前を頼もうとする。
「フライドチキン。異論は?」
「なし!」
光流とも昼食の意見が一致し、有名店の出前を取るために俺はスマホをいじる。
「最近はスマホの調子大丈夫?」
「ああ、フリーズもないし全く熱くならない」
「それなら良かった」
俺は高校3年生の12月あたりにスマホを変えた。
結構古い機種を使っており、画面は固まるしすぐに本体は熱を持つしで大変だった。
変えた当初は俺の手の中にある最新機種に喜んだ。
しかしすぐに絶望がやってくる。
ちゃんとスマホデータが移行できておらず連絡先が全て消えてしまったのだ。
お陰で悟の連絡先も藍子先輩の連絡先もパーになってしまい、現在ある連絡先は家族と光流だけ。
その出来事で藍子先輩の様子もわからずにいた。
共通する友人もいなかったため、繋がりは途絶える。
悟のことも勿論気になるが、1番は藍子先輩が今何をしているかが気になった。
「ヒーくん頼んだ?」
「ああ、まだ」
「お腹すいた!」
「はいはい」
俺は多めのフライドチキンを頼むとスマホを消す。
すると消すと同時に電話がかかってきた。
「親父からだ」
「どうぞ〜」
俺は椅子にふんぞり返りながら親父からの電話を取る。
一人暮らしを始めてから何かと連絡をしてくるので正直鬱陶しかった。
何気に母さんよりも電話を寄越す。
「もしもし」
「私だ。元気か?」
「元気」
「そうか。最近仕事の方はどうだ?」
「まぁまぁ普通に。依頼も来ているし」
「そうか。でもたまには息抜きをしろよ。作曲家にとって大事なのは想像力だ。それが無くなったら作曲家のヒロは死んだと思え」
「はいはい。そういう親父はどうなんだよ」
「ああ、我が家は最高だなと感じている。しばらくはここに身を置いているからいつでも来い。仕事は最近、とあるアイドルグループに納品したばかりだ」
「ふーん。でも実家は本当にヤバい時しか行かないと思う」
「なら私がお前の家に行ってやろうか?」
「鍵かける」
「……そうか。それじゃあな。声が聞けて良かった」
「はい。じゃあね」
俺はスマホの画面を切る。
声が聞けて良かったなんてほとんど週に1回はかけてくるだろとツッコミそうになった。
親父は俺が高校3年生になる前に家に帰ってきた。
なんでも外国で音楽の修行をしていたらしい。
母さんもそのことは知らなくて帰ってきて早々親父に怒っていた。
俺は最初の頃、親父を避けていた。
しかし高校を卒業した藍子先輩が夢に向かって努力していることを本人からのメッセージで聞いて俺も前に進みたいと気持ちが変わる。
そのきっかけがあって俺は親父に作曲を習った。
それが今に繋がって仕事という形だ。
俺が変われたのはたぶん先輩が行動で表してくれたおかげだろう。
そう考えていると会いたい気持ちが膨れ上がる。
でも現実的に考えて無理なので首を少し振ってかき消した。
「ヒーくんさ、忙しいわりには曲のレベル上がっているよね」
「なんだよ急に」
「ちょっと思ってさ。聴いてくれる人も増えているし、何よりヒーくんを昔から知っている僕が感じるんだもん」
光流は自分のスマホをいじりながらそう言った。
「ああ、これだよ」そう言って見せられたスマホの画面には俺の動画サイトのチャンネルが映されている。
音声ソフトを使った曲や、歌い手さんに歌唱してもらった歌がゾロリと並んでいた。
「登録してくれてる人、あと少しで50万人だよ。本当凄いよね」
「俺1人の力じゃないけどな。光流も動画何かアップしてみるか?ピアノとか」
「今の僕の腕は鈍ってるからな〜」
机を鍵盤に見立てて左右の指を動かす光流。
高校1年生の時に挫折を経験して、吹奏楽を辞めた光流は独学で自由にやりたいと言い1人で練習していた。
でも本人曰く吹奏楽の時が今までで最高に弾けていたらしい。
俺はそんな事ないのになと思いながら光流が動かす指を見ていた。
もう少しで50万人。
それくらいの人が俺を認識している。
仕事の依頼も絶えることなく連絡が来るし、有り難いことに納品すれば楽曲に対して凄く喜んでくれた。
俺はなんとも言えない感情になって光流に話を聞いてもらう。
「俺ってさ」
「ん?」
「色んな人に動かされてる」
「どういう事?」
「光流にピアノの良さを教えられて、父親に作曲の方法を学んで、ヒナタに音楽の知識を身に付けられた。それに1番動かしてくれた人もいるんだ」
「なんか照れるなぁ。で?1番は?って聞いて欲しいんでしょ」
「まぁな。1番は俺の恋を終わらせて、夢を進ませた人」
「理解不能」
「初恋の人」
俺がそう言うと光流はスマホから目を離す。
初めて俺が恋の話をしたからびっくりしたのだろう。
「ヒーくんに初恋があったんだ…!」
「あるよそれくらい」
「まだかと思っていたよ。え?その人には失恋したの?」
「直球だな…。失恋っていうか恋を終わらせた」
「それって失恋なんじゃ…」
「失恋じゃない」
俺は腕を組んでそう言うと納得しない光流は苦笑いする。
「たまにヒーくんって頑固だよね」
頑固。
その言葉に懐かしく感じた。
『本当に頑固』
俺は小さく思い出し笑いをする。
急に笑った俺を見て不思議そうに首を傾げている光流に俺は言った。
「そうだな。譲れないんだ。俺は頑固だから」