次の日、俺は悟にama好きの先輩の話をしていた。

今日は昼休みの練習はないらしくホッとした様子を見せている悟。

昨日の練習は朝、昼、放課後とあったらしく顧問も最後の方はテンションが下がっていたらしい。

コンビニパンを齧る悟はうんうんと頷きながら話を聞いてくれた。



「amaって人俺は知らねーな」

「今は活動休止してるから。でも、活動がそこまでみんなの前に出ているってわけでもないね。だからこんな近くにamaを知ってる人がいて凄く嬉しい」

「だろーな。いつもよりテンション高いもん」

「それで先輩と話したいなと思って、3年生の教室に行きたいけど名前知らないんだよね」

「フハッ、ヤバそれ。知らないんじゃどうしようもないわ」



コンビニパンの最後のひと口を食べた悟は牛乳で流し込んだ後、物欲しそうに俺のお弁当箱を見る。

俺は苦笑いして悟に箸を渡した。



「肉だけだぞ」

「サンキュー!……うまっ!お前のお母様最高」

「調子いいな。それでさ、どうしたら先輩に会えると思う?」

「そんなの簡単だよ。誰かに聞けばいい」

「誰に?」

「特徴さえ言えばわかるだろ?確か、鎖骨くらいの黒髪だっけ?」

「そう。それで身長は高め。バレー部までは行かないけど」

「アメちゃんとは真逆だな。低身長でロングヘア、小ささを活かしたダンスはカッケェのよ」

「はいはい。クラスの女子に聞けば知ってるかな?」

「んー。あっ、おーい立花!ちょっと聞いてもいいー?」



悟は近くで友達とお弁当を食べていたクラス委員の立花さんを呼びつける。

真面目だけれどもノリが良く人当たりもいいから人気者の立花さんは「あんた達がこっちに来なさいよ〜」と言いながらも来てくれた。



「ごめん。立花さん」

「こいつが人探ししてるんだって」

「ああ、九音くんが?それなら良いよ」

「俺じゃダメなのかよ!」

「あんたは色々と人使いが荒いの!日直の時には…」

「わかったわかった!ヒロ、早く聞けよ!」



お説教されるのがめんどくさいからと俺に早く言うよう急かしてくる。

座ってる俺達の隣に立つ立花さんに顔を向けて質問した。



「3年の女の先輩なんだけど、鎖骨くらいの黒髪で身長が高めの人知らないかな?」

「んー、もう少しヒント」

「ヒント…目はパッチリしていて…?」

「顔の輪郭は?」

「ちょっと長め?の…」

「美人?可愛い系?」

「美人系?」

「うん。わからん」

「マジかよ立花。そこまで聞いといて?」

「黙れ、チャラチャラ野球男。学校の生徒1人1人覚えてるわけないだろ」

「口悪っ!だれがチャラチャラ野球男だ!」

「まぁまぁ。でもありがとう立花さん。ごめんね、食事中に呼んで」

「こちらこそ力になれなくてごめん。なんでその先輩探してるの?もしかして一目惚れ!?」

「いや違うよ。色々あって同じ歌手が好きな事がわかったんだ。でも肝心の名前が聞けなくて」



俺はまた苦笑いして机に視線を下げた。

あの時、名前を最初に聞いておけばよかったと後悔している。

嬉しさでamaの話で終わってしまうとは反省だ。

もう少し考えて話せば良かった。



「先生に聞いてみたら?」

「え?先生?」

「3年の先生とか。話しやすい先生見つけて特徴言ってみればいいじゃん」

「おー!頭良い!流石立花!」

「なるほど。それ良いかもしれない。ありがとう立花さん」

「いいえ!じゃあ頑張って!何か進展あったら教えてね!」

「うん、わかった。見つかったら教えるよ」



立花さんは手を振って友達のいる席に戻って行った。



「どの先生に聞く?野球部の顧問は2年の先生だから無理か〜」

「保健室の先生とかどうかな?昨日保健の先生に用事があるって言ってたからわかるかもしれない」

「んじゃあ今から行く?」

「い、今からは時間的に無理だと…」

「えー俺も美人先輩見たかったなぁ」

「俺は放課後行ってみるよ。悟が部活で頑張ってる時」

「ウザ!はぁ、雨降らないかな…」

「6月だから急に振ってくるかも」

「祈ろう!」



本当調子が良いなと思いながら俺は残りのご飯を食べ終えた。

そういえば先程、立花さんに悪口言われてたけどそれももう気にしてないみたいだ。

悟の楽天的な考え方は羨ましく感じる。

だからこそ友達が自然と寄ってくるのだろうなと思った。

俺がお弁当を閉まっても窓に向かって祈りを捧げている悟の頭をバシッと叩くと「雨乞いが!」なんてまたふざけ出した。

そんな面白さに俺も笑っていた。