改札前の切符販売所で俺は切符を購入すると、駅の柱に背を付けて待っていた先輩がこっちを見る。



「本当に頑固」

「だから言ったじゃないですか。デートだって。俺が出します」

「何回も言わなくていいから…」



とっくに泣き止んだ先輩は俺をジッと睨んだら目を逸らした。

先輩は自分も出すと言って財布まで出したが、それは俺が阻止する。

俺のわがままに付き合ってもらうのだから、俺自身が出さないと気が済まない。

今日ばかりは何度頑固と言われようが譲らない気合いだった。

俺は切符を1枚先輩に渡して改札を通ると、後ろで歩いている先輩に左手を差し出す。



「え?」

「デートなので」



手を繋いでとは言わなくても先輩には伝わったらしくまた顔を赤くした。

付き合ってもいないのに手を繋ぐのはやはりハードな行為なのか、なかなか先輩は握ろうとしない。

ちょうど電車も駅に来て大きな音を立てる。

シューっと扉が開く音がするとアナウンスが駅名を告げた。



「電車行っちゃいますよ」

「……」



俺が少し意地悪にそう言うと先輩は俺の小指をギュッと握る。

今の先輩にはそれが精一杯の行動だった。

俺はなんだか可愛く感じて少し微笑むと、先輩の手を包み込むように握る。

一瞬肩が跳ね上がった先輩をエスコートする様に電車に乗せた。

電車内は時間も時間だから人は少ない。

先輩が入った後に扉が閉まったのでセーフだった。

俺は手を繋ぎながら座席に移動して2人で座る。

向かい側の席に老人のおばあちゃんがいて俺達を見るとニコニコし出した。

俺は気付かないフリをして、扉の上に設置されている駅名の画面を見る。

やはりマップ通りに5つ目の駅で降りるようだった。



「ヒロくん、どこ行くの?」

「内緒です。でも怖いところではないから安心してください」

「でも現実見せるって…」

「言葉で言うとそうです。だからと言って先輩を傷つけることはしません」

「うん…」



俺の言葉で少し安心したのか先輩は電車の景色を見始めた。

よくよく考えたら、現実を見せるなんて言い方は悪かったかもしれない。

怖いことをされるのではないかと勘違いしてしまう。

本当に言葉の能力が無いなと実感した。

本を読み始めた方が良いかもしれないな…。

俺も先輩と同じく景色を見る。

そこまで変わらない景色は見ても面白くないのになぜか目が行ってしまう。

電車に限らず車に乗ってもそうだ。

不思議な現象だなと思った。

すると電車がガタンと大きく揺れると、その拍子に先輩と俺も体を揺らした。

びっくりした先輩は俺の手を強く握ると同時におれの心臓がまた痛くなる。

揺れが収まると先輩の力が緩まるのを感じたが、それでも手は握り続けてくれていた。

俺は目的の駅に着くまで、先輩の手の感覚が頭から離れずに景色を見ていても手には熱が篭りっぱなしだった。



ーーーーーー



5つ目の駅に電車が着いて俺達は降りて、そのまま改札を通って駅から出れば日差しが俺と先輩を照らした。

後で水分を買った方がいいかもなと考えて先輩を見ると妙に顔が赤い。



「先輩?」

「な、何?」

「体調悪いですか?」

「悪くないよ」

「でも顔が赤い。俺変わったことしました?」



改札の時は手を離して、通ったら繋いだがそれは前の駅でもしたことだ。

電車内でも繋いでいたし今更だろう。

それでも先輩は恥ずかしいのだろうか。

先輩は俺の疑問に首を横に振る。



「その、電車降りる時に向かい側のおばあちゃんに見られて…」

「あー」



あのニコニコしたおばあちゃんか。

俺達を見た瞬間に笑顔になり始めたからきっと微笑ましく感じたのだろう。

先輩は降りる時まで気付かなかったみたいだが、最後の最後におばあちゃんのニコニコを見てしまったらしい。

おばあちゃんには悪意はないだろうけど慣れてない俺達からしたら見られるのは恥ずかしかった。

思い出すと俺も熱くなってくる。

これはきっと太陽の暑さではなく、おばあちゃんの微笑みのせいだ。



「ま、まぁしょうがないですね。俺達を孫みたいに思ったんじゃないですか?」

「そうかもしれないけど流石に恥ずかしかった…」

「でも離しませんよ」

「ほんっとに頑固…」



やはり手を繋ぐのはまずかっただろうか。

でも俺は手を離す気は全くない。

俺に二言はないんだ。

先輩の頑固攻撃が来ても俺は手を離さない。

先輩の怖くない睨みの視線を逸らすように俺はスマホを取り出してマップを開いた。



「場所はここから近いみたいです。日陰探しながら歩きましょう」

「うん…」



この地区は人通りも多い場所だからビルやお店が建ち並んでいる。

日陰も沢山あるし、何より手を繋いでも人に紛れることが出来る。

現在もそこら辺にカップルは沸いているから俺達が珍しい存在ではない。

俺はスマホを片手に先輩の手を引いて目的の場所へと向かった。