「母さんに何がわかるんだよ…!」
「ヒロ」
「なんだよ」
「貴方が気に入っているamaは私の教え子よ」
「は?」
「えっ」
お母さんは私達に真剣な声で言った。
思わぬ言葉にヒロくんも私も止まってお母さんを見る。
「amaがデビューする前から歌を教えていた。基礎を叩き込んだのも私。もちろんデビューした後も、頻繁に歌のレッスンを担当した。amaのマネージャーよりも仲が良かった自信もあるくらい沢山歌ったわ」
ヒロくんのお母さんがamaの先生。
確かに歌の先生ならアイドルの指導をしたっておかしくない。
しかしヒロくんはそれを知らなかったらしく、口を開けて驚いていた。
「天羽琴(あまは こと)。彼女の本名を知っている人は本当に信頼されている人だけ。私も教えてもらった。実際、活動休止前まで関わっていたから琴は娘のようだった。琴が休止した理由は知ってる?」
「知らない」
「わかりません…」
「ハードなスケジュールと、心が壊れてしまったことよ。スケジュール調整はスタッフにも非がある。しかし、心が壊れたのはアンチの言葉を全て受け止めたから」
今、私はお母さんの言った言葉で全てがわかってしまった。
お母さんはアイドルには精神的な強さが必要なのだと言いたいことを。
アイドルや芸能人にはアンチと言われる批判する人達は必ず付いてくる。
それは嫉妬や言動が気に入らないなど、表面的な部分での嫌いがアンチを生む。
私はそんな人達が嫌いだ。
SNSでアイドルを調べれば必ずと言っていいほどアンチコメントは存在している。
それは私でなく、彼女達に対してだから「酷いな」と軽くしか思わない。
しかしアイドルになりステージに立てば私に向けた言葉の攻撃がくる。
私はその攻撃に耐えられるだろうか。
いや、耐えられない。
最悪の場合死だって選ぶかもしれない。
私は1番重要な事を見逃していた。
歌とダンスだけじゃない。
アイドルは対応がある。
それがわかってしまった今、私はお母さんに改めて「アイドルになる」とは言えなかった。
「夢を見て意気込むのも大事。今のアイドルは個性も求められるから変わり映えも大事。なんの変哲も無かった少年少女が生まれ変わってアイドルになるストーリーだってある。でも結局最後は耐えられるかなのよ」
「母さん…」
「私は琴が辛い時に気付けなかったし、仕事以上の関わりはしなかった。当然よね。私は歌の先生。それ以上でもそれ以下でもない。アイドルになれば自分の辛い感情は隠さなければいけない。琴はそれが崩れてしまった」
悲しそうに私からの視線をずらすお母さん。
きっとamaを助けられなかったことを悔やんでいるんだろう。
amaは壊れた時どう思ったのか。
私には想像できない。
私はヒロくんの腕を離した。
そしてお母さんに向き直り頭を下げる。
「今日はありがとうございました。少し考えてみます」
「ええ。お疲れ様」
「ヒロくん。私は帰るね」
「先輩、送ります」
「大丈夫。1人になりたいから…」
「ならせめて玄関まで」
ヒロくんは椅子に置いてあった持ち物を取ると私に手渡す。
そしてお母さんに背を向けて私と一緒に防音室から出て行く。
綺麗な廊下でも私達は喋ることが出来なかった。
私が鼻を啜る小さな音がやけに響く。
気まずい雰囲気は充満していた。
玄関に着くと私は靴を履いてヒロくんを見る。
「今日はありがとう」
「……先輩」
「何?」
「これ…」
制服のズボンのポケットから1枚の紙切れを取り出すと私に渡す。
ノートの端を破ったような紙切れには英語と数字が書いてあった。
「俺の連絡先です。お互いに知らなかったなと授業中に気付いて殴り書きしたので汚い字ですけど」
「…ありがとう」
「要らなかったら捨ててください」
要らないわけない。
そう言いたかったけど、今なにかを言葉にすると涙が出て言えなくなってしまいそうだった。
私は小さく頷いて玄関を出る。
私の背中に差さるヒロくんの視線に何度も謝りながら。
「ヒロ」
「なんだよ」
「貴方が気に入っているamaは私の教え子よ」
「は?」
「えっ」
お母さんは私達に真剣な声で言った。
思わぬ言葉にヒロくんも私も止まってお母さんを見る。
「amaがデビューする前から歌を教えていた。基礎を叩き込んだのも私。もちろんデビューした後も、頻繁に歌のレッスンを担当した。amaのマネージャーよりも仲が良かった自信もあるくらい沢山歌ったわ」
ヒロくんのお母さんがamaの先生。
確かに歌の先生ならアイドルの指導をしたっておかしくない。
しかしヒロくんはそれを知らなかったらしく、口を開けて驚いていた。
「天羽琴(あまは こと)。彼女の本名を知っている人は本当に信頼されている人だけ。私も教えてもらった。実際、活動休止前まで関わっていたから琴は娘のようだった。琴が休止した理由は知ってる?」
「知らない」
「わかりません…」
「ハードなスケジュールと、心が壊れてしまったことよ。スケジュール調整はスタッフにも非がある。しかし、心が壊れたのはアンチの言葉を全て受け止めたから」
今、私はお母さんの言った言葉で全てがわかってしまった。
お母さんはアイドルには精神的な強さが必要なのだと言いたいことを。
アイドルや芸能人にはアンチと言われる批判する人達は必ず付いてくる。
それは嫉妬や言動が気に入らないなど、表面的な部分での嫌いがアンチを生む。
私はそんな人達が嫌いだ。
SNSでアイドルを調べれば必ずと言っていいほどアンチコメントは存在している。
それは私でなく、彼女達に対してだから「酷いな」と軽くしか思わない。
しかしアイドルになりステージに立てば私に向けた言葉の攻撃がくる。
私はその攻撃に耐えられるだろうか。
いや、耐えられない。
最悪の場合死だって選ぶかもしれない。
私は1番重要な事を見逃していた。
歌とダンスだけじゃない。
アイドルは対応がある。
それがわかってしまった今、私はお母さんに改めて「アイドルになる」とは言えなかった。
「夢を見て意気込むのも大事。今のアイドルは個性も求められるから変わり映えも大事。なんの変哲も無かった少年少女が生まれ変わってアイドルになるストーリーだってある。でも結局最後は耐えられるかなのよ」
「母さん…」
「私は琴が辛い時に気付けなかったし、仕事以上の関わりはしなかった。当然よね。私は歌の先生。それ以上でもそれ以下でもない。アイドルになれば自分の辛い感情は隠さなければいけない。琴はそれが崩れてしまった」
悲しそうに私からの視線をずらすお母さん。
きっとamaを助けられなかったことを悔やんでいるんだろう。
amaは壊れた時どう思ったのか。
私には想像できない。
私はヒロくんの腕を離した。
そしてお母さんに向き直り頭を下げる。
「今日はありがとうございました。少し考えてみます」
「ええ。お疲れ様」
「ヒロくん。私は帰るね」
「先輩、送ります」
「大丈夫。1人になりたいから…」
「ならせめて玄関まで」
ヒロくんは椅子に置いてあった持ち物を取ると私に手渡す。
そしてお母さんに背を向けて私と一緒に防音室から出て行く。
綺麗な廊下でも私達は喋ることが出来なかった。
私が鼻を啜る小さな音がやけに響く。
気まずい雰囲気は充満していた。
玄関に着くと私は靴を履いてヒロくんを見る。
「今日はありがとう」
「……先輩」
「何?」
「これ…」
制服のズボンのポケットから1枚の紙切れを取り出すと私に渡す。
ノートの端を破ったような紙切れには英語と数字が書いてあった。
「俺の連絡先です。お互いに知らなかったなと授業中に気付いて殴り書きしたので汚い字ですけど」
「…ありがとう」
「要らなかったら捨ててください」
要らないわけない。
そう言いたかったけど、今なにかを言葉にすると涙が出て言えなくなってしまいそうだった。
私は小さく頷いて玄関を出る。
私の背中に差さるヒロくんの視線に何度も謝りながら。