急いで来たようでヒロくんは少し息が上がっていた。
でもすぐに整えて私を見る。
「校門前で先輩の後ろ姿見たんです。最初は気のせいと思ったけど、やっぱり気になっちゃって…。先輩って歩くのを早いんですね」
「まぁ、早くここに来たかったから…。でもよくわかったね。私だって」
「ちゃんと見てますから」
真っ直ぐ見られて、素直な言葉を私に言うヒロくんに照れてしまう。
するとまた保健室の扉が開いた。
書類を両手に抱えている紗凪先生。
私とヒロくんを見るなり驚いた声を出す。
「藍子ちゃん!?来てたの!?」
「は、はい。今登校しました」
「大丈夫!?あれだけ他の生徒達がいる時間避けてたのに……」
「大丈夫です」
「そっか、よかった…。九音くんと来たの?」
「俺は先輩の後ろ姿を見つけて追いかけてきただけです。藍子先輩は1人でここまで来てましたよ」
「凄いよ藍子ちゃん!先生びっくりしちゃった!」
書類を抱いたまま私に近づいて喜んでくれる紗凪先生。
まるで自分の子が成長したかのようにはしゃいでくれた。
ヒロくんもそれを見て微笑んでいる。
「じゃあ俺は教室に行きますね」
「うん。ありがとう」
「いえ、ただ単に確認に来ただけなので。それじゃあ先輩、昼休みに来ますね」
「わかった。授業頑張ってね」
「はい!」
膝を上げて立ち上がったヒロくんはカバンを手に持って保健室から出て行った。
名残惜しいけどお喋りなら昼休みに沢山できる。
体調が悪くならない限り、帰るのは5時間目の途中にしよう。
紗凪先生はニコニコして自分の机に座る。
私は1冊の本をカバンから取り出した。
「いや〜進歩だね。先生は本当に嬉しいよ」
「ありがとうございます。でも、やっぱり震えちゃったし恐怖心もあったので……」
「無理はしないでね。ストレスになって体調崩したら元も子もないから。それにしても藍子ちゃん何かあったの?」
「何がですか?」
「いつもよりスッキリした顔しているし、登校時間も早いからさ。もしかして九音くん?」
「そうですね。ヒロくんがきっかけをくれたんです」
「へ〜それを教えることはできる?」
「んー、内緒です」
「そっかそっか」
紗凪先生はそれ以上は何も追求してこなかった。
しつこい性格じゃないから助かる。
アイドルになりたいって言う話は今のところヒロくんにしか出来ない。
でもいつか勇気が出たら話してもいいかなと思う。
紗凪先生は私を大切に面倒見てくれる人だから。
紗凪先生との話が止まった私は取り出した本の表紙を開く。
ブックカバーをしてあるので絵柄は見えないけど、この本はヒロくんと買いに行った本だ。
とあるアイドルグループの人が卒業後に書いた1冊。
本来なら中古で買っても良かったけど、会計慣れすると同時にヒロくんと少しでも一緒に居たかったから書店で新品の本を買った。
まだ1ページも読んでいないピカピカの本。
紗凪先生はそれに気づいたのか私に話しかける。
「また新しい本?藍子ちゃんって読むの早いよね」
「確かに早いです。文章を目で追いかけるのも結構速い自信があります」
「私は読むの遅いんだよね〜。まぁ本読まない人は大体遅いけど…。今回も青春小説?」
「これはエッセイって言えばいいのかな?アイドルグループを卒業した人がアイドル人生を書いた本です」
「藍子ちゃんアイドル好きだもんね。なるほど、ノンフィクションを選ぶのも1つの手か…」
「私もそこまで読まないのでイメージですけど、勉強になる内容が多い気がします」
「わかる気がする。その人の人生を書いているし、私達とは違う道だからね」
顎の下に手を当てて考える紗凪先生は自分に言い聞かせるように「ノンフィクションもいいな…」と小さな声で言っていた。
すると紗凪先生は何かを思い付いたように私に向かって言う。
「アイドルになりたいって思わないの?」
「え?」
「だってさ、アイドルが好きなんだったならそう思うのかなって。藍子ちゃん可愛いからいけるかもよ〜?」
本心を見抜かれた私は一瞬黙る。
でも黙っていたら紗凪先生も心配するだろうし、私がアイドルになりたいって言うのがバレてしまうかもしれない。
まだ、ヒロくん以外には言えない。
「考えてはないですね」
「そうなの?今って結構一般人でもアイドルなれる時代だからてっきり…」
「人が怖いから無理だと思います。それに私メンタル豆腐レベルだし」
ふと、私は自分に何を言っているのかと思う。
紗凪先生にバレないためとは言え否定するような言葉を口にした。
1番自分がわかっているから、直すために今日頑張ったのに。
それでも心の奥底では諦めてしまっているのか。
たった一言二言だけど私は後悔に襲われて、自分を叱る。
そんな言葉に紗凪先生はアドバイスするかのよう話続ける。
「メンタルって言うのは年齢と共に強くなるのよ。私は今になってやっと豆腐まできたわ。以前は豆腐よりも崩れやすいものだったし」
「そうなんですね…」
短い返事しか私は出来なかった。
紗凪先生の話が頭に入ってこない。
ちょうど1時間目のチャイムが鳴る。
「それじゃあぼちぼち始めようか」
「はい…」
1ページも進まなかった本を閉じてカバンにしまう。
それと入れ替えに数学のテキストと筆箱を取り出した。
準備して、問題に取り掛かっている間も私はなんであんな事を言ったのだろうと考える。
紗凪先生に考え事をしているのを気づかれないように途中途中、シャーペンを動かしながら。
誰も否定しなくても私自身が否定する。
その事実にどうしたらいいのかわからずに時間は過ぎて行った。
でもすぐに整えて私を見る。
「校門前で先輩の後ろ姿見たんです。最初は気のせいと思ったけど、やっぱり気になっちゃって…。先輩って歩くのを早いんですね」
「まぁ、早くここに来たかったから…。でもよくわかったね。私だって」
「ちゃんと見てますから」
真っ直ぐ見られて、素直な言葉を私に言うヒロくんに照れてしまう。
するとまた保健室の扉が開いた。
書類を両手に抱えている紗凪先生。
私とヒロくんを見るなり驚いた声を出す。
「藍子ちゃん!?来てたの!?」
「は、はい。今登校しました」
「大丈夫!?あれだけ他の生徒達がいる時間避けてたのに……」
「大丈夫です」
「そっか、よかった…。九音くんと来たの?」
「俺は先輩の後ろ姿を見つけて追いかけてきただけです。藍子先輩は1人でここまで来てましたよ」
「凄いよ藍子ちゃん!先生びっくりしちゃった!」
書類を抱いたまま私に近づいて喜んでくれる紗凪先生。
まるで自分の子が成長したかのようにはしゃいでくれた。
ヒロくんもそれを見て微笑んでいる。
「じゃあ俺は教室に行きますね」
「うん。ありがとう」
「いえ、ただ単に確認に来ただけなので。それじゃあ先輩、昼休みに来ますね」
「わかった。授業頑張ってね」
「はい!」
膝を上げて立ち上がったヒロくんはカバンを手に持って保健室から出て行った。
名残惜しいけどお喋りなら昼休みに沢山できる。
体調が悪くならない限り、帰るのは5時間目の途中にしよう。
紗凪先生はニコニコして自分の机に座る。
私は1冊の本をカバンから取り出した。
「いや〜進歩だね。先生は本当に嬉しいよ」
「ありがとうございます。でも、やっぱり震えちゃったし恐怖心もあったので……」
「無理はしないでね。ストレスになって体調崩したら元も子もないから。それにしても藍子ちゃん何かあったの?」
「何がですか?」
「いつもよりスッキリした顔しているし、登校時間も早いからさ。もしかして九音くん?」
「そうですね。ヒロくんがきっかけをくれたんです」
「へ〜それを教えることはできる?」
「んー、内緒です」
「そっかそっか」
紗凪先生はそれ以上は何も追求してこなかった。
しつこい性格じゃないから助かる。
アイドルになりたいって言う話は今のところヒロくんにしか出来ない。
でもいつか勇気が出たら話してもいいかなと思う。
紗凪先生は私を大切に面倒見てくれる人だから。
紗凪先生との話が止まった私は取り出した本の表紙を開く。
ブックカバーをしてあるので絵柄は見えないけど、この本はヒロくんと買いに行った本だ。
とあるアイドルグループの人が卒業後に書いた1冊。
本来なら中古で買っても良かったけど、会計慣れすると同時にヒロくんと少しでも一緒に居たかったから書店で新品の本を買った。
まだ1ページも読んでいないピカピカの本。
紗凪先生はそれに気づいたのか私に話しかける。
「また新しい本?藍子ちゃんって読むの早いよね」
「確かに早いです。文章を目で追いかけるのも結構速い自信があります」
「私は読むの遅いんだよね〜。まぁ本読まない人は大体遅いけど…。今回も青春小説?」
「これはエッセイって言えばいいのかな?アイドルグループを卒業した人がアイドル人生を書いた本です」
「藍子ちゃんアイドル好きだもんね。なるほど、ノンフィクションを選ぶのも1つの手か…」
「私もそこまで読まないのでイメージですけど、勉強になる内容が多い気がします」
「わかる気がする。その人の人生を書いているし、私達とは違う道だからね」
顎の下に手を当てて考える紗凪先生は自分に言い聞かせるように「ノンフィクションもいいな…」と小さな声で言っていた。
すると紗凪先生は何かを思い付いたように私に向かって言う。
「アイドルになりたいって思わないの?」
「え?」
「だってさ、アイドルが好きなんだったならそう思うのかなって。藍子ちゃん可愛いからいけるかもよ〜?」
本心を見抜かれた私は一瞬黙る。
でも黙っていたら紗凪先生も心配するだろうし、私がアイドルになりたいって言うのがバレてしまうかもしれない。
まだ、ヒロくん以外には言えない。
「考えてはないですね」
「そうなの?今って結構一般人でもアイドルなれる時代だからてっきり…」
「人が怖いから無理だと思います。それに私メンタル豆腐レベルだし」
ふと、私は自分に何を言っているのかと思う。
紗凪先生にバレないためとは言え否定するような言葉を口にした。
1番自分がわかっているから、直すために今日頑張ったのに。
それでも心の奥底では諦めてしまっているのか。
たった一言二言だけど私は後悔に襲われて、自分を叱る。
そんな言葉に紗凪先生はアドバイスするかのよう話続ける。
「メンタルって言うのは年齢と共に強くなるのよ。私は今になってやっと豆腐まできたわ。以前は豆腐よりも崩れやすいものだったし」
「そうなんですね…」
短い返事しか私は出来なかった。
紗凪先生の話が頭に入ってこない。
ちょうど1時間目のチャイムが鳴る。
「それじゃあぼちぼち始めようか」
「はい…」
1ページも進まなかった本を閉じてカバンにしまう。
それと入れ替えに数学のテキストと筆箱を取り出した。
準備して、問題に取り掛かっている間も私はなんであんな事を言ったのだろうと考える。
紗凪先生に考え事をしているのを気づかれないように途中途中、シャーペンを動かしながら。
誰も否定しなくても私自身が否定する。
その事実にどうしたらいいのかわからずに時間は過ぎて行った。